オーストラリアとニュージーランドにおける特許超過クレーム料金の支払いについて

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はじめに

2020年に、IPオーストラリアとニュージーランド知的財産庁(「IPONZ」)の両方が改定料金表を導入し、超過クレーム料金の支払いに影響を及ぼす新しい料金体系が設定されました。この記事では、これらの変更点と、両管轄区域で最適なクレーム数を決定する際に考慮すべきその他の要因について検討します。

概略/基本情報

オーストラリアまたはニュージーランドで特許出願を行う場合、出願時のクレーム数が庁費用に影響することはありません。

オーストラリアでは超過クレーム料金は出願が許可される(すなわち特許される)時点で係属中のクレーム数に基づいて発生します。つまり、審査時に多数のクレームを提示することのデメリットはほぼありません。

ニュージーランドでは超過クレーム料金は審査期間中のクレームの最大数に基づいて決定されます。ただし、多数のクレームがある場合を除き、審査請求前にクレーム数を減らす自発補正を行うと、超過クレーム料金を支払うよりも多くの費用がかかる場合があります。

どちらの国でも、特許付与後の補正にかかる費用や不確実性(特に無効手続きがある場合)と比較すれば、超過クレーム料金を支払うほうが、費用効果が高い場合があります。

オーストラリア

–超過クレーム料金は特許されたクレーム数に基づいて発生する

2020年10月1日以降は、特許されたクレーム数に基づいて、以下に示す超過クレーム料金が登録時に発生します。

  • クレーム数が20を超えた場合、21から30までは1クレームごとにAU$125
  • 30を超えた場合は1クレームごとにAU$250

料金は特許されたクレーム数に基づくため、審査請求時に多数のクレームを提示しても不利益はありません。IPオーストラリアが審査請求時またはそれより前の時点で超過クレーム料金を導入し、多数のクレームを有する出願に対する審査経費を回収する新しい料金制度を導入しなかったことは、いささか意外となりました。

上記を踏まえますと、国内段階移行時、または審査請求時にクレーム数を減らすために補正を提出しても費用効果はなく、また、その必要もありません。クレーム数を減らす必要がある場合、一般的に最も費用効果に優れた方法は、他の補正と同じタイミング(拒絶理由通知に応答する時など)で行うことです。

受理または特許付与後の自発補正

2020年10月1日以降、許可(特許)後の補正案で完全明細書のクレーム数が増加し、かつ補正後のクレームの総数が20を超える場合、追加クレームごとにAU$250を支払う必要があります。この場合重要なのは、20を超えるクレームに費用が限定されるのではなく、補正後のクレームの総数が20を超える場合に、挿入された追加クレームごとに費用がかかることです。

一方で、許可(特許)後の補正によってクレーム総数が15であったのが20またはそれ以下に増えたとしても、超過クレーム料金は適用されません。 この変更で注目すべきは、たとえば、許可または特許付与時のクレーム数が15であり、出願人が追加クレームを挿入するために許可後/特許付与後の補正請求を提出する場合です:

  1. 6つの追加クレームを加えて補正後のクレーム総数が21になった場合、超過クレーム料金としてAU$1500(6 x AU$250)がかかります。
  2. ところが、5つの追加クレームを加えて補正後のクレーム総数が20になった場合、超過クレーム料金はかかりません。

いずれの場合も、許可後の補正を行うための庁費用としてAU$250を支払う必要があります。

つまりこの場合、6番目の追加クレームが余計であると考えることができます。6つすべての追加クレームが商業的に重要な実施形態に向けられている場合は、補正時に、原出願のクレームにおいて重要性の低いクレームを削除するか、またはその他2つの従属クレームの特徴をひとつのクレームに統合することで、かなりの額の費用(AU$1500)を節約できます。

ニュージーランド

–超過クレーム料金は、審査過程の任意の時点におけるクレームの最大数に基づいて決定される

オーストラリアとは対照的に、2020年2月13日にIPONZで導入された料金表の変更は、単一の出願に含まれる多数のクレームの審査に伴う費用の回収を目指すもののようです。2020年2月13日以降に審査請求を行った出願については、審査過程の任意の時点で30またはそれ以上のクレームが係属中である場合、超過クレーム料金が適用され、審査過程における最大クレーム数に基づいて計算されます。費用は出願の許可時に支払う必要があります。

クレーム数が許可前に減らされているかどうかにかかわらず、審査過程の任意の時点で、出願中のクレームが25クレームを超えた場合、5クレームごとにNZ$120が発生します。たとえば、クレーム数50で審査請求が行われた場合、許可前にクレーム数を20に減らしたとしても、クレームの最大数である50クレームに基づいて、NZ$600の超過クレーム料金が請求されます。

ニュージーランドにおける審査請求指令の発行は、過去数年間稀になってきている、または全く行われていないため、弁理士は超過クレーム料金が発生する可能性を、クライアントが審査請求期限より前に認識しているよう、積極的に働きかける必要があります。審査請求を行う前に、クレーム数を減らす自発補正請求を行うことで、超過クレーム料金を減額または回避することができます。ただし、この戦略が功を奏するかどうかは、補正前の潜在的な係属中のクレーム数によって異なります。たとえば、原出願のクレーム数が100である場合、クレームに対する補正請求を行わずに審査を請求すると、NZ$1800の超過クレーム料金が許可時に発生することになります。補正の複雑度合いにもよりますが、審査請求の前に自発補正請求を行い、クレーム数を29またはそれ以下に補正することで、この金額を少なくとも半分に減らせる可能性があります。

一方、原出願のクレーム数が30~50である場合、クレーム数を29またはそれ以下に補正する自発補正の請求を行うことは補正費用を鑑みると費用効果が高くないため、この場合、すべてのクレームを審査してもらうことが出願人にとっては有益であるとも考えられます。

ニュージーランドにおける分割出願

分割出願の場合、審査請求の提出期限は、本源的な親出願の出願日から5年です。現在のIPONZの実務では、本源的な親出願の最初の請求の範囲を使用して分割出願を行い、後で審査のために好ましいクレームを含むように補正する必要があります。実際には、ニュージーランドの分割出願は5年の期限日またはその直前に行われることが多く、審査請求の前にクレーム補正を行う時間がほとんど取れません。そのため、本源的な親出願に多数のクレームが含まれる場合、費用がかさむ可能性があります。よって、これらの期限より前に超過クレーム数に関する潜在的な問題を特定し、それらの問題に十分な時間を持って対処できるようにすると良いでしょう。

超過クレーム料金を減額または回避するための戦略

オーストラリアとニュージーランドのどちらででも、超過クレーム料金を減額または回避するためには複数の選択肢があります。一般的な戦略は、1つまたは複数の従属クレームの特徴をひとつのクレームに統合すること、または従属クレームを1つまたは複数の独立クレームに多数項的に従属させることです。オーストラリアとニュージーランドのどちらでも、多数項従属クレームはそれぞれ単一クレームとしてのみ数えられます。

超過クレーム料金が過剰でない場合

超過クレーム料金を減額または回避するため、多くの時間と手間をかけてクレーム数を減らすことが多々ありますが、絶対的にその価値があるかについては一考の余地があります。特許権の費用は弁理士による明細書作成時から発生しますが、明細書作成に費やされる時間の大半は、各クレームの正確な言い回しの検討に充てられます。時には、こうした特定の実施形態のいくつかを保持するため、追加料金を支払うという決断が、有意義な保険となることもあります。従属クレームは多くの場合、商業的な製品または発明の好ましい実施形態を明示的に保護するように作成されます。結果的に、従属クレームが、出願人にとってより重要な発明の側面を説明する細部を保護することが多々あります。また、製品に関する追加の従属クレームは、方法に関する従属クレームよりも権利行使がしやすいため、有益である可能性が高まります。

オーストラリアまたはニュージーランドで特許の異議申立てがなされた場合、特許を無効化するには、当該特許のすべてのクレームを無効化する必要があります。特許のクレーム数が多くなるほど、無効化への試みの難易度が高まります。複数の独立クレームがある場合は、特許の無効化がより困難となり、従属クレームが増えるごとに、競合他社が特許権者の特許を「無力化」する可能性をさらに軽減する、優れた頼みの綱となるのです。それぞれのクレームに対して実体的な費用が付加的に発生するため、結果的に、多数のクレームが特許の取消し申請に対して有益な抑止力として機能する場合があります。

また、出願人は、有効性への異議申立てに対処するためにクレームの補正が必要になる可能性についても考慮しなければなりません。有効性への異議申立てに対処するための補正の許可は、裁判所の裁量で付与されます(裁量の行使に関するガイドラインの一覧は、Apotex Pty Ltd v Les Laboratoires Servier (No 2) [2009] FCA 1019、[86]-[88]をご参照ください)。クレームに導入することが提案された特徴がすでに請求の範囲内に記載されている場合、サポート要件により、補正の許可が付与される可能性はより高くなります。より範囲の広いクレームに簡単に挿入できる個別の従属クレームの存在は、複雑性を減らし、結果的に付与後の補正にかかる費用も減らすことができます。

推奨事項

オーストラリアでは、出願の許可前であればいつでもクレーム数を減らす補正を行うことはできますが、超過クレーム料金を減額または回避するためにクレームの数を減らす最も費用効果に優れた戦略は、一般的に、他の補正と同じタイミング(たとえば拒絶理由通知に応答する時)でクレーム数を減らす補正を行うことです。対照的に、ニュージーランドでは、超過クレーム料金は審査請求を行う前の重要な検討事項になり得ます。出願人は、将来有効性に対する異議申立てが発生した場合に備えて、追加クレームを活用する可能性についても考慮しなければなりません。

オーストラリアまたはニュージーランドでの超過クレーム料金に関して、詳しいアドバイスが必要でしたら、お気軽にお問い合わせください。

この記事は最初に2021年3月23日に英語で公開されました


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