弁理士とのQ&A

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第1部:先行技術

この連載では、特許法に関連するよくある質問とその回答をご紹介します。連載のスタートとして、先行技術に関する議論を行います。

先行技術とは?

「先行技術」を簡単に言うと、発明に対する特許出願日前に存在していて、かつ公的に入手可能な情報と定義できます。1オーストラリア法では、公衆が「正当な権利として」資料を閲覧できる場合、当該情報が公的に入手可能であると定めています。先行技術には年数の期限はありません。つまり、数千年前の遺物であっても、先行技術と見なされる場合があります。

先行技術にはオーストラリアで公表された情報だけでなく、世界中で公表された情報も含まれます。たとえば、モンゴルの図書館で借りることができる書籍が、後に出願されたオーストラリア特許出願の先行技術と見なされる場合があります。

先行技術は通常、発明の背景または枠組みを定めるものですが、有効な特許を取得する妨げになる場合もあります。

先行技術の重要性とは?

特許は、とりわけ新規性(新しいこと)と進歩性(自明でないこと)を満たす発明に対して付与されます。発明が新しく、自明でないかどうかの評価は、先行技術を参照して行われます。

このことから、先行技術は発明が特許可能か(つまり発明に対して有効な特許を付与できるかどうか)、または既存の特許が有効かどうかを判断する上で重要な役割を果たします。

特許出願に対して先行技術が見つかった場合にはどうなりますか?

特許出願の審査中、多くの場合、特許審査官は、出願で開示されている発明に関連する可能性がある1つ以上の先行技術文献を見つけます。特許審査官は、先行技術文献が過去に当該発明を説明していた、または公に示していたため、発明が新しくない、または自明であるとして、その発明が特許可能でないと主張することができます。

弁理士は通常、先行技術と発明の間の差異を、それがどれだけ微妙な差異であっても探し出します。こうした差異を調べることで、特許出願を補正して発明をより明確に定義したり、発明が先行技術と照らして新規性と進歩性がある理由を説明する意見を審査官に提示したりします。

先行技術と見なされるものとは

先行技術の様式や種類は複数存在し、それが認められるかどうかは国・地域(Jurisdiction)によって異なります。通常、先行技術は、公的に入手可能な文書内の情報、あるいは何らかの行為を通じて公的に入手可能となった情報のいずれかに分類されます。2

オーストラリアで先行技術と認められる文書の例を次に示します。

  • 特許公報(特許出願、および有効または有効でない可能性がある登録特許を含む)
  • 書籍
  • 論文
  • 雑誌
  • カタログ
  • 漫画本3
  • 写真
  • ウェブサイトおよびウェブページ(YouTubeの動画を含む)
  • ポスター
  • 録音およびCD
  • コンピューターのデータバンク

特定の行為が先行技術と見なされる場合もあります。

  • 口頭での開示(展示会、カンファレンスイベント、セミナー、デモンストレーションなど)
  • 発明を具現化する製品の販売または販売の申し出
  • 発明の商業利用

上記に照らして、特許による保護を求めることに先立って、発明の機密性を守り、発明を商業利用しないことが不可欠です。

先行技術と見なされないものとは?

先行技術の定義から、特許出願以前に公的に入手可能ではない情報は、一般的に先行技術と見なすことができないという結論が導かれます。4

したがって、機密性を持つ情報は、たとえそれが特許出願に先立って発生していたとしても、先行技術として使用することはできません。この代表的な例が、企業秘密(trade secrets)です。別の例として、仮特許出願で開示が行われ、その後関連する特許出願が行われなかった場合があります。これは、仮特許出願の内容が公開されず、秘密のままであるためです。

特許による保護を求めることに先立って、発明を第三者に開示することを回避できない状況もあるかもしれません。こうした状況では、適切に作成された具体的な秘密保持契約書(NDA)または守秘義務契約書を締結し、かかる開示が秘密に行われることを確実にすることが、強く推奨されます。

注意点:発明の商業利用は、秘密裏にまたは機密性の高い方法であったとしても、後の特許出願を潜在的に無効化する場合があります。秘密裏に使用された発明に特許を付与できないことの根拠は、特許権所有者が、特許の最大制定期間を超えて長期間独占することになるためです。5なお、合理的な試みまたは実験を背景として発明を使用することは、通常は秘密裏の使用とは見なされません。

先行技術調査のメリットは?

専門的に行う先行技術の調査は、いくつかの商業的メリットと戦略的メリットをもたらす場合があります。専門的調査の品質と範囲は、支払える予算に大きく比例します。発明に対する特許保護の価値が高ければ、高品質な先行技術調査のために相応の時間と費用を投資する価値があるかもしれません。

先行技術の調査の1つの形態が特許性の調査です。これは特許出願に先立って、あるいは特許付与の後に行うことができます。

出願前に行われる場合、特許性調査には、発明に対して有効な特許を得ることの妨げとなり得る先行技術を明らかにする狙いがあります。発明が独自のものかどうか、特許保護を求める価値があるかどうかを判断する際に、調査が役に立つことがあります。

特許付与の後に行われる場合、特許性(または有効性)調査には、付与された特許でクレームされた発明の新規性と進歩性に関連し得る先行技術を明らかにする狙いがあります。この調査は、特許の商業化(ライセンシングなど)の前、または法的措置の実施(侵害訴訟などの)前に効果的に特許の「強み」を示すために行われることがあります。

他に考慮すべき有用な調査としては、FTO(Freedom-to-Operate)調査または侵害防止調査があります(これについては完全に別の議論のテーマとなり得ます)。簡潔に申しますと、侵害防止調査は、既存の特許の侵害リスクを分析し緩和するために、製品の開発前、または製品の市場投入前に実施されます。調査は通常、製品を商業的に実施する国・地域で有効な特許を調査すことに限定されます。 先行技術調査は複雑で高い専門性が問われる場合があります。こうした調査を実施する前には、有資格の弁理士に助言と支援を求めることが強く推奨されます。

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上記に関して、当所にお手伝いできることがあれば、またはご質問等があれば、お気軽にお問い合わせください。


1 ここで参照される日付は、発明に関して最初の特許出願が行われた日付である「優先日」です。特許出願ファミリーでは、各出願で優先日が共通している場合があります。

2 オーストラリアでは、先行技術にはもう1つ別のカテゴリーがあります。「Whole of Contents(全内容的)」と呼ばれるこの文書は、一定のオーストラリア特許明細書に含まれる、特許出願の優先日/出願日以降に公開された情報です。このような「Whole of Contents(全内容的)」文書は、発明の新規性(新しさ)を評価するためにのみ関連し、進歩性(自明性)の評価には関連しません。

3 ドナルドダックの漫画がオランダの特許出願を拒絶するための先行技術として使用されたことがあります。 https://www.iusmentis.com/patents/priorart/donaldduck/

4 「Whole of Contents(全内容的)」文書に言及する脚注2の例外を参照してください。

5 オーストラリアでは、標準特許の最大保護期間は特許日から20年です。特許の対象が「医薬品」に関連する場合、特定の状況ではこの期間を延長することができます。

この記事は最初に2021年2月11日に英語で公開されました


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