中国最新情報:特許法改革はどこへ向かう?

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2019年1月4日の国民人民会議で、第4回特許法改正草案が発表されました。この草案は、今度の特許法改革の焦点となる点を示したもので、コメントが寄せられるよう一般に公開されました。

この改正の主な目的は、侵害者が用いることのできる抜け道を確実に封鎖するよう、特許権の行使システムを改善することです。この改革は、新しく法廷外の政府当局を侵害訴訟に関与させること(例えば行政執行機関などとして)や、立証責任の一部を被告である侵害者に転じることや、侵害者からより多額の補償金を受け取る確立を増やすことを目指しています。さらに、この改正は、オンラインの申し出による侵害が伴う場合に関し、インターネットサービスプロバイダ(ISP)に共同責任を課すことを目的としています。改正案による改革はその他にも、発明者報酬、情報収集のための公共サービス、および自主的なライセンス供与の申し出の導入などによる中国知財システムの改善に重点を置いています。起案されている変更点は中国の現地出願人に対してより関連性がありますが、意匠特許の存続期間の15年への延長、および医薬品発明に対して特許期間延長制度の導入の可能性の発表は、他国の出願人にとっても特筆すべきものです。

改正案の理解を深めるため、以下の2者の観点を紹介いたします:発起人(特許権者)の見解と中国で目立った活動を行っている事業者の見解です。

発起人(特許権者)の見解

意匠特許の存続期間を10年から15年に延長する提案は、中国がハーグ協定に加盟するために必要とされています。特許制度の利用者にとって、意匠特許保護をさらに活用できることは確実に有益です。特筆すべきは、意匠特許が場合によっては商品ラインを保護する知的財産ポートフォリオの一部として、付加的な保護を提供できることです。意匠特許は、複雑な技術的問題の査定がなくとも法廷で権利行使することができる上、国家知識産権局(CNIPA)での方式審査の後に取得するのが比較的簡単です。

製薬業界もまた、革新的な医薬品発明に対する特許期間延長制度を確立させることについて国務院が承認を提議していることを高く評価することでしょう。最長延長期間は5年を超えないものとされ、最終的な特許保護の上限は14年に設定されています。しかしながら、今後数ヶ月にわたる法改革において、特許期間延長を取得するために課される条件がさらに明確化されると思われます(詳細についてはこちらをご参照ください). なお、草案では、期間延長の対象となる革新的な医薬品の、他国への市場投入に対する「中国での市場投入と同期する出願」について言及されています。革新的な医薬品の中国への参入が遅れると、この非常に価値のある特許期間延長を取得できなくなる可能性があるため、製薬会社は承認審査手続きを世界規模で統一することが必要になるでしょう。改革の全般を通じて特許期間の延長に関してさらなる進展が見られましたら、またご報告いたします。

上記の意図の権利行使改善策により、うまくいけば一部の侵害者が利用する回避的手法の使用を防止できると考えられます。草案で議論されているように、意図的な侵害に対して高額な補償が裁定されるようになれば、侵害を繰り返し行う者を抑止できるでしょう。さらに、法廷ではなく行政執行機関を稼働させることで、より大規模かつ迅速な権利行使などの利益がもたらされる可能性があります。侵害者が自身の口座または侵害行為に関する資料へのアクセスを許可しない場合は、原告の声明によって信頼に足るとされる侵害額に対して補償を支払わなければならない可能性があるため、補償額は潜在的に高額になると考えられます。加えて、法定の最大賠償額(侵害規模に関する詳細な証拠がないため他の補償額算出方法が適切でない場合)は、500万人民元(約75万米ドル)に増加されます。これは (以前にご報告いたしましたように)、損害賠償額がより高額になるという全体的な傾向に沿っています。補償および損害賠償は訴訟において付加給付となるため、現行の中国制度の制限が緩和されるということになります。

結果として、中国の特許は全体としてより価値あるものになるでしょう。

事業者の見解

権利行使の強化は発起人を支持しますが、知的財産権の紛争が不正競争において誤用されるリスクは常に存在します。中国で事業を展開している企業は、提起されている変更が何を意味するのかを認識しておく必要があります。

地方自治体がより強力な執行措置をとることができるようになるということは、すなわち企業が悪意を持った競合他社の行為に晒される可能性がでてくるということでもあります。新たな執行機関の経験不足のために、例え告発された被告である侵害者に複雑な特許無効の主張がある場合や、先行技術の範囲内での実施や先使用権を有するなどのような他の抗弁がある場合でさえも、急速かつ苛酷な判決につながる可能性があります。この点に関して草案では、告発され被告となった侵害者を捜査するための多くの選択肢が執行当局に提供されている点が、特に懸念となるかもしれません。告発された者がただ単に他者の特許権を侵害する行為を行った、といったような単純なケースの場合は広範な捜査措置も十分に正当化されると思われますが、多様な抗弁を伴う複雑な侵害の場合は、そうとは限りません。Qualcommが最近Appleに対して獲得した、中国でのiPhoneの一部モデルの販売を禁止する予備的差し止め命令からも見て取られるように、侵害訴訟の判決はしばしば非常に複雑であり、事実関係の深い理解とともに、明確に定義された範囲の判決を下す力量を必要とします。

中国における事業者は、自由に事業できるための分析、および防御戦略の展開に、より多くの努力を費やす必要があるでしょう。執行に関する新たな選択肢は、あらゆるリスク・エクスポージャーの分析においても考慮される必要があると考えられます。

中国での知財ポートフォリオに関する追加の情報または助言がご入用な場合は、Oliver Lutzeまでご連絡ください。oliver.lutze@spruson.com

この記事は最初に2019年2月12日に英語で公開されました。


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