ジェネリックかジェネリックでないか、それが問題だ

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Encompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd [2019] FCAFC 161 (2019年9月13日)

全会一致の判決で、連邦裁判所拡大大法廷はコンピュータ関連発明のための特許可能な対象の要件に関するEncompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd1 における上訴を斥けました。その際に、大法廷はそのような発明のための明細書の作成に関する指針を示しました。さらにこの判決は、特許所有者に対する革新特許制度の有利な性質を浮き彫りにしました。

背景

Encompass Corporation Pty LtdおよびSAI Global Property Division Pty Ltd(原告)は、オーストラリア革新特許第2014101164号(164号特許)およびオーストラリア革新特許第2014101413号(413号特許)のそれぞれの特許所有者および専用実施権者でした。

原告は、被告InfoTrack Pty Ltdを164号特許のクレーム1、2および3ならびに413号特許のクレーム1、2、3および4に対する侵害で訴えました。被告は、自身の行為がこれらのクレームを侵害していると認めましたが、164号特許および413号特許はさまざまな法的根拠により無効である、と交差主張しました。

一審の裁判官はEncompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltdにおいてこれらの特許の対象は特許可能ではないと判示しました。164号特許および413号特許のクレームには革新性(innovative step)がないという主張に対し、一審の裁判官は164号特許のクレーム2および413号特許のクレーム1は革新性を有すると判示しました。

発明

この発明は複数の管理場所(repositories)にわたって統合検索を行い、情報を表示してビジネスインテリジェンスを提供するための方法および装置に関するものでした。得られる情報は、ビジネスまたはその他の商業環境に関係する個人、会社、企業体、企業合同体またはいずれかその他の当事者などの「実体」に関するものでした。

164号特許の技術背景おいて、このような情報は複数の異なる場所において管理されるため、関連情報の特定およびアクセスは困難であり、検索を行う際に見落とされる場合があると言及されていました。また、同技術背景では、複数の統合検索システムが存在するも、これらは使いやすくないことにも言及していました。

164号特許の独立クレーム1は、裁判所の要約により、以下が明示されているとされました。

  1. 遠隔データソース(複数)へクエリを送ることによるネットワーク表現の生成、
  2. ユーザーへの前記ネットワーク表現の表示、
  3. ユーザー入力コマンドに対し、ユーザーによって選択された実体に対応する少なくとも一つのユーザーによって選択されたノードの決定、
  4. 前記の(少なくとも一つの)選択されたノードと関連する前記対応する実体に関して行われる少なくとも1回の検索の決定、
  5. 検索クエリを発生させることによって、複数の遠隔データソースの少なくとも一つから前記実体に関する追加情報を決定するために少なくとも1回の検索の実行、および
  6. 前記ユーザーへの追加の情報の提示。

164号特許の従属クレーム2はこの方法が遠隔データソースからの報告書の購入を含むと明示しました。413号特許の独立クレームも遠隔データソースから報告書を購入する追加のステップを含んでいました。

特許可能な対象

大法廷は、特許可能な対象に関する上訴の根拠を斥け、「訴えられているクレームは、実際のところジェネリックな(一般的な)コンピュータ技術を使用して抽象的なアイデアに適用する指令(この方法のステップ)に過ぎない」3 と結論しました。

クレームされた方法は、「ジェネリックなソフトウェア」を使用しただけでは実施できないという原告による主張に対し大法廷は「訴えられているクレームは、この方法を実行するであろういかなる特定のソフトウェアもプログラミングもこの発明の必須な特徴として確定しない。この目的のために最適なコンピュータ・プログラムを考案し、続いて実施することは、この方法をその目的で使用しようと望む者に完全に任される。」と注記しました。この結論は大法廷が、明細書の発明を実施するための形態は「この方法がどのように実施されるべきかについて大部分は不可知論的(agnostic)」5 であると言及したときに最も明らかでした。

大法廷は、クレームされた方法がそれ自体コンピュータ・プログラムにおける高レベルな記述であるという、原告による主張を認めず、「この観点から検討した場合、この方法は実際にはコンピュータ・プログラムのためのアイデアである」と述べました。大法廷は、続けて「この方法はクレーム通りとするとResearch AffiliatesおよびRPL Centralにおいてクレームされた方法と原理において異ならない。この方法がそれ自体特徴を示されていない「電子処理装置における...方法」であるという理由だけでは特許可能な対象とはならない。これ以外の判決を下すと実質より形式を重視することになってしまう。」6 と述べました。

クレームされた方法が「コンピュータにおける改良」という結果を生むかどうかを尋ねたという一審の裁判官に対する原告の批判に対し、大法廷は、この陳述は特許可能な対象の試金石への言及を用いた、特許の可能性がある対象についての問いかけおよび捜索であると理解される」7べきであることを明確にしました。大法廷は、さらに続けて「本法廷は、原告が口頭陳述において示唆したように裁判官殿がハードウェアに特化した試験を推論していたとは理解しない。裁判官は、クレームされた発明がその他の点において抽象的なアイデアの、単なる「コンピュータによるジェネリックな実施」を超える何かであるかどうかに自らの考えを向けていたに過ぎない8ことを明確にしました。

一審の裁判官が、クレームされた発明が3種の既知の方法を繋ぎ合わせたものだと描写したことを受け、原告はクレームされた組み合せの相互関係の働きが考慮されなかったとも主張しました。これに対し、大法廷は一審の裁判官の見解が「クレームされた方法が抽象的なアイデアの『コンピュータによるジェネリックな実施』を超える何かとなるような、特許可能性がある対象についての問いかけおよび捜索であると理解される」9べきであることを再び明確にしました。

革新性

被告は、164号特許および413号特許のそれぞれのクレーム中でクレームされている発明は革新性がないため、一審の裁判官は特許の取り消しを判示すべきだったと主張する主張通知書を提出しました。

被告は、クレームされている購入ステップはこの発明の実施に貢献しないと陳述しました。被告による鑑定書は「それはツールの機能性もしくは働きを変えることも情報を表示する方法としての有効性を改善することもない」10ことを示唆しました。追加の鑑定書は「検索クエリを提出する過程で提出されるべき支払い情報を提供するであろうコーディングを行うことは簡単な問題だっただろう」11こと、および購入ステップは「商業データソースをシステムに含むと選択した結果に過ぎない」12ことを示唆しました。

しかし、大法廷は、そのような鑑定書は的外れであると結論し、「この方法検索および/または回収を行い、その後情報表示に使用する前に、遠隔データソースから購入する必要がある情報を検索し回収する能力を備えなければ、方法としてのその有用性は、無料アクセス情報への参照のみによって動作できるものに相応的に限定される。この方法がこの能力を備えることができるという事実は、この変化形が先行技術に比べて実際本当に、この方法の実施に現実または実質的な貢献することを示唆する。前に述べたように、このステップ実行することが比較的単純かもしれないという事実は、その貢献の事実を否定しない。」13と注記しました。

革新性の評価に関する大法廷の結論に関し、2019年IP修正(生産性委員会答申第2部およびその他の方針)法案が2019年7月25日に議会に上程されたことを大方はご存知かもしれません。この法案が成立した場合、革新特許制度は段階的に廃止されるでしょう。出願人は、クレームされた独自性の単純さにもかかわらず、クレームが依然として先行技術に対して革新性を含むと判定される場合があるとする連邦裁判所大法廷によるアプローチを特に考慮し、この分野における進展を注視するべきでしょう。

考慮:特許可能な対象

大法廷の特許可能な対象に関する論拠は、明細書の記載において、発明をどのように実施できるかが特定的に概説されていなかったことに由来し、サポート要件と特許可能な対象との絡み合った性質を浮き彫りにしたように思えます。また、大法廷の特許可能な対象についての論拠の要点は、クレームされた発明がコンピュータによる単なるジェネリックな実施であるかどうかにあるようにも見受けられます。そのような結論につながった特性は不明です。しかし、連邦裁判所大法廷は審理の一部として、ある程度の「コンピュータにおける改良」があったかどうかの考慮を含むと注記しました。裁判所の意見に基づけば、明細書に詳細な実施が記載され、かついずれかの技術問題克服の概略が示されるように作成されていれば、特許可能な対象ではないとの所見に反論するために有用な場合があるように見受けられます。

特許および商標弁護士協会(IPTA:Institute of Patent and Trade Mark Attorney)はこの上訴に参加する許可を求め、特許可能な対象に関する最近のオーストラリア特許庁の判決に関して申立書を提出しました。しかし、大法廷は、判決の重点は一審の裁判官が法律における過誤を犯したかどうか14に関すると注記しました。従って、オーストラリア特許庁はクレームが特許可能な対象であるか否かの考察では、現行実務を維持すると予想されます。

大法廷は、非中国語キーボードを使用して中国語の文を組み立てるための標準的なコンピュータ処理装置を対象とする特許可能なクレームを含むCCOM15に肯定的に依拠しました。しかし、標準的なコンピュータ上で実施されるソフトウェアの保護を求める出願人は、その発明がコンピュータによる単なるジェネリックな実施であるかどうかに関する潜在的な拒絶や主張に対応する必要があります。

大法廷は「この上訴がいかなる重要な原則的質問も提起するとは思わない」16という見解であり、このことは上訴の可能性を制限する可能性があります。しかし今年始めに、コンピュータで実施するビジネス方法は特許可能な対象であると判示した Rokt Pte Ltd v Commissioner of Patents17における連邦裁判所の判決を特許庁長官が上訴したことに弊所は注意を促したいと思います。従って、もし上訴が追求された場合、特許可能な対象に関して連邦裁判所大法廷からさらなる指導があるかもしれません。

[1] Encompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd [2019] FCAFC 161

[2] Encompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd [2018] FCA 421

[3] Encompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd [2019] FCAFC 161, [99]

[4] ibid [100]

[5] ibid [22]

[6] ibid [101]

[7] ibid [109]

[8] ibid [110]

[9] ibid [111]

[10] ibid [158]

[11] ibid [160]

[12] ibid [160]

[13] ibid [77]

[14] ibid [163]

[15]  CCOM Pty Ltd v Jiejing Pty Ltd (1994) 51 FCR 260

[16] Encompass Corporation Pty Ltd v InfoTrack Pty Ltd [2019] FCAFC 161, [77]

[17] Rokt Pte Ltd v Commissioner of Patents [2018] FCA 1988

この記事は最初に2019年9月16日に英語で公開されました


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