サノフィ対アムジェン紛争 オーストラリアの近況

この記事は最初に2024年8月13日に英語で公開されました

標題は、何年にもわたるもっとも重要な医薬品特許紛争の一つであり、世界中の関係者の注目を集めています。アムジェン(Amgen)のPCSK9抗体特許に関するこの特許訴訟は、機能的および構造的に定義されている抗体クレームの有効性を評価する際に主要な法管轄区域が採用する多様な手法を浮き彫りにしてきました。 米国において、アムジェンの特許クレームは、最高巡回裁判所により実施可能性の欠如を理由として無効の判決を受けました

米国において、アムジェンの特許クレームは、最高巡回裁判所により実施可能性の欠如を理由として無効の判決を受けました[1] 。対応する欧州の異議申立手続きにおいて、アムジェンの特許のクレームは、実施可能と判断されましたが、その後、審判部により進歩性がないとして無効にされました[2] ]。そして今年7月に、統一特許裁判所のミュンヘン中央部門は、鍵となるアムジェン特許を取り消しました。つまり、新たに創立された汎欧州法廷による最初の取り消し判決です[3]

オーストラリアにおいては、結果は異なりました。2022年に、特許庁長官の代理人は、アムジェンに対して有利に裁決し、同社の特許出願のうち5件が有効であり、付与に進むべきであると判断しました[4]。サノフィ(Sanofi)は、この判決を連邦裁判所に上訴しました。

この記事は、代理人の2022年判決に関する弊所の以前の記事を要約し、連邦裁判所上訴に関する近況を提供します。

特許庁異議申立

適用される法律

異議申立を受けた出願群は、アムジェンのコレステロール低下抗体エボロクマブ(レパーサ)を包含し、サノフィの競合抗体アリロクマブ(プラルエント)を包含している可能性があります。当該出願群は、2012年知的財産改正(基準を上げる)法より前に存在していたため、すべて1990年特許法の対象となります。

現行特許法の下では、サポートおよび十分性の要件が適用され、ヨーロッパでもそうであるように、クレームは、当該分野への技術的貢献と相応していなければならず、明細書は、当業者がクレームの全範囲にわたって不当な重荷またはさらなる発明なしで発明を実施することを可能にしなければならないことを意味します。

しかし、「旧」特許法の下では、「完全な明細書」と「公正な根拠」という、特許権寄りの要件が適用されます。これらの根拠に基づいて特許に異議を申し立てることは困難なことが知られていました(そして大抵うまく行きませんでした)。

クレーム

代理人は、争われているクレームを次の3つのクラスに分けました。

  1. エピトープクレーム:単離されたモノクローナル抗体を、PCSK9のエピトープであって、指定された残基を含むエピトープに結合するその能力によって定義する;
  2. 残基クレーム:単離されたモノクローナル抗体を、PCSK9の1つ以上の特定の残基に結合するその能力によって定義する;
  3. 競合クレーム:単離されたモノクローナル抗体を、構造的に定義された抗体との結合に向けて競合するその能力によって定義する[5]

これらのクレームは、PCSK9のLDL受容体(LDLR)との結合を阻止するかまたは弱める抗体の能力を指す機能の文言を含んでいます。

明確性

サノフィは、明確性の欠如を理由としてこれらのクレームに異議を申し立て、結合する、妨げる、弱める、無力化するおよび競合するなどの不正確な文言を引用しました。代理人は、これらの主張を拒絶し、各用語には意味を与えることができ、クレームは実施可能な標準を提供すると判決しました[6]

公正な根拠

サノフィは、これらのクレームは公正に明細書に基づいていないと反論し、2種類の抗体だけが作製され、試験され、LDLRとのPCSK9の結合を妨げることが示されたと主張しました。代理人は、この反論を却下し、この発明が単離された特定の抗体を超えて及ぶことを示す明細書中のより広い記述を指し示しました。それらの段落は一般的であり、かつ特定の実施例とは関連付けられていなかったものの、発明が単離され、特徴づけられた出願中の特定の抗体を超えて及ぶことを代理人に示したということになります[7]。代理人は、明細書がエピトープクレーム、残基クレームおよび競合クレームによって包含される抗体の実際のかつ合理的に明確な開示を提供している点について納得しました。

完全な明細書(十分性)

十分性のための基準は、受け取り人(addressee)が新たな発明もしくは長期の研究なしで各クレームの範囲内で何かを製造することを、特許明細書が可能にするかどうかです。サノフィは、これらの出願はクレームのいずれのものの範囲内の抗体も開示しておらず、当業者はこれらの出願中に記載されている抗体を再現することができないと反論しました。代理人は、十分性のための基準を再構成し、受け取り人が開示によって、

  • 記述されたアミノ酸残基を含むエピトープ、または
  • 特定された特定のアミノ酸残基

と結合する抗体を、新規発明または追加物または初期困難と思われる事柄についての長期的な研究なしで作製することを実施可能にするか問いました。

明細書においてPCSK9とLDLRとの間の結合部位または相互作用界面が記載されていること、および2つの例示抗体がPCSK9とLDLRとの間の結合を阻止するためにこの領域とどのように相互作用するかが示されている点について、代理人は納得しました。代理人はまた、、特定された残基はPCSK9とこれらの抗体との間の非共有結合相互作用を形成すること、および通常の知識を有する受け取り人はクレームの範囲内の抗体を日常的な技法を用いて生成させることができることも認めました。

代理人は、明細書中に提供されている情報を用いて各クレームを具体化する1種類の抗体を作製するために必要な作業が、たとえそのような作業が複雑であり、時間がかかり、かつ費用がかかるとしても当該分野において日常的であるものを超える何かを必要とする点について納得しませんでした[8]。したがって異議申立のこの根拠も失敗しました。

連邦裁判所上訴

サノフィは、代理人のこの判決を連邦裁判所に上訴しました。2023年11月に開始された連邦裁判所審理までの期間に、サノフィは2件の中間申立を行いました。

サノフィ対アムジェン社[2023]FCA 264は、証拠開示の指令と実験による証拠に依拠する許可を求めるサノフィの中間申立に関するものでした。実験による証拠に関し、サノフィは他の法管轄区域における訴訟のために行われた実験に依拠することを求めました。連邦裁判所は証拠開示を求めるサノフィの申立を却下し、すべてではありませんが当該実験による証拠の一部への依拠を許可しました。

特定の実験に依拠する許可を却下する際に、ニコラス裁判官(Nicholas J)はそれらの実験がサノフィの申し立てた無効理由にほとんど関連しないとみなしました。裁判官は、対応する欧州の裁判においてそれらの実験から導くことができる結論について顕著な論争があり、それらの実験をオーストラリアの裁判に持ち込むと時間と費用の相当なかつ不当な無駄を生じる可能性があるとも述べました。

許可された実験による証拠は、サノフィの申し立てた無効理由に直接関連するとみなされました。

サノフィ対アムジェン社(第2)[2023]FCA 1156において、サノフィは、アムジェンが審理において挙証することができる証拠を限定する命令を求める更なる中間申立を行いました。アムジェンは、特許庁での異議申立において3名の専門家による宣誓書およびそれらの同じ専門家からの補足宣誓供述書に依拠することを提案していました。サノフィは、実質的に重複しているという理由でその証拠の一部を除外するよう求めました。イェーツ(Justice Yates)判事は、サノフィが最初の訴訟管理手続きにおいてその懸念を提起することができたのにそうしなかったと述べ、サノフィの申立全体を却下しました。

この上訴は継続中です。


[1] No.20-1074、連邦巡回控訴裁判所 2021年。

[2] T 0845/19。

[3] サノフィ対アムジェン、UPC-CFI_1/2023。

[4] サノフィ対アムジェン社 [2022] APO 67 (「サノフィ対アムジェン」)。

[5] サノフィ対アムジェン [51]。

[6] サノフィ対アムジェン [109]。

[7] サノフィ対アムジェン [134] および [137]。

[8] サノフィ対アムジェン [174]。


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