Facebook、中国で「FACEBOOK」の商標権を失う

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2020年3月20日、中国国家知識産権局(「CNIPA」)は、Facebookによる第42類の2つの商標登録を無効とする判決を下しました。この判決により、ソーシャルメディア企業であるFacebookは、商標を所有する個人である中国のDr. Su Kaiming(医師)との10年以上にわたる論争で大きな敗北となりました。

Facebookのソーシャルメディアプラットフォームは、イラン、シリア、北朝鮮での禁止措置に加えて、2009年7月から中国でもブロックされていることは周知の事実です。しかし、中国での運営が不可能であるにもかかわらず、Facebookが依然として同国の広告プラットフォームの上位企業の1社であるということはあまり知られていません。CNBC、ナスダックおよびThe Motley Foolは、Pivotal Research Groupによる調査結果を引用し、次のように述べています。「Facebookは、国外に向けたメッセージの宣伝を目論む中国企業や政府機関に対して、年間50億ドル以上に相当する広告スペースを販売しているとアナリストは見積もっています。結果としてFacebookにとり中国は、2018年の広告収入で、売上高241億ドルの米国に続く最大の収益国となっています。」1, 2, 3, 4

FacebookのCEOであるマーク・ザッカーバーグはこれまで、中国への複数回の鳴り物入りの訪問や中国語の学習に加えて、習近平国家主席の著書(『The Governance of China』)を従業員に配布し、2016年3月には天安門広場周辺をジョギングする姿も公開されるなど、中国に対する真剣な取り組みを見せてきました。2018年、Facebookはスタートアップ企業を育て、現地企業へのアドバイスを行うために、3,000万ポンド(3,850万米ドル)を投じて杭州市に子会社を設立しようとしましたが、中国が承認を取り消したとみられ、この計画は頓挫しています。

Facebookの商標問題は、上記のような背景から始まっています。2006年5月19日に、Dr. Suは、「受託による研究開発、コンピュータプログラミング、コンピュータソフトウェア設計、コンピュータソフトウェアの更新、コンピュータソフトウェアの維持、コンピュータシステム設計、受託によるウェブサイトの作成と維持など」を対象として、第42類のサブクラス4209および4220で、FACEBOOKの商標申請を行いました。Dr. Suは医師であり、当時Facebookが中国に参入していたことを除けば、この造語を採用する合理的な説明はありませんでした。

2007年11月20日、FacebookはFACEBOOKの商標登録を出願し、2014年3月4日にはさらに、FACEBOOK脸谱(最初の文字は中国語で「顔」を意味し、2番目の文字は中国語で「本」を音読みしたもの)の商標登録を出願しました。(中国での海外商標の翻字法については、こちらをクリックして過去の記事をお読みください)。Facebookの出願はどちらも、第42類のサブクラス4220、すなわち「受託によるウェブサイトの作成と維持、コンピュータプログラムおよびデータのデータ変換[物理的変換を除く]、インターネットの検索エンジンの提供、コンピュータサイト[ウェブサイト]のホスティング」、および「ダウンロード不可のコンピュータソフトウェアのレンタル、コンピュータプログラミング、コンピュータプログラムおよびデータのデータ変換[物理的変換を除く]、ユーザが作成または決定した情報、個人の履歴書、音声、ビデオ、画像、テキスト、グラフィック、データを特徴とするコンピュータシステム設計、物理データとドキュメントの電子媒体への変換、その中で登録ユーザがグループを作り、イベントを組織し、議論に参加し、ソーシャル、ビジネスおよびコミュニティのネットワーキングに参加する仮想コミュニティの形態でのコンピュータステーション(ウェブサイト)のホスティング、通信ネットワークを介して電子媒体または情報を提供する、ダウンロード不可のソフトウェアのレンタルなどのサービス」を対象とするものでしたが、現在の審査実務に従って、Dr. Suによる先の出願によって登録が阻止されたとみられます。そのため、FacebookはDr. Suの先の出願に対して教鞭な異議申し立てを起こしました。

まず2011年に、CNIPAはFacebookの異議申し立てに対して否定的な判決を下しました。これは、中国が「先願主義」の国家であり、Facebookが中国で第42類の関連する先行出願/登録を行っておらず、なおかつ、Dr. Suが商標出願をした2006年の時点では、中国国内の広範な利用による評判を通じて、未登録の権利の保護を主張するのに十分な周知性がなかったことを考えれば、驚くことではありませんでした。さらに、Dr. Suは、2006年11月にAMUL、WIPROおよび威普罗(「WIPRO」という名前の音訳)も出願申請を行っています。これらは数十億ドル規模のインドの企業に所属する商標でしたが、模倣した商標の数が少なかったことから、Dr. Suが商標を不正取得したとみなすには不十分であると判断されました。

当時施行されていた2001年の中国商標法では、異議申し立て人は棄却されてもまだ控訴が可能でした。Facebookの控訴を受け、CNIPA(上訴機関の役割を果たす)はこの決定を覆し、Dr. Suの商標が登録に至った場合は「社会に不健全な影響」を与えるおそれがあることを理由に(前記旧法の第10.1.8条)、異議申し立てを支持しましたが、Facebookが主張した他の理由に対しては、異議申し立てを支持しませんでした(前記旧法の第13.2条、29条、31条および41.1条)。

両者はこの判決に不服を示し、第一審裁判所に控訴しました。2度にわたる個別の判断により、裁判所はDr. Suの商標は第10.1.8条に違反するものではないと判決し、そのため、CNIPAの判決を覆し、Facebookの主張を退けました。Facebookはこれを受け、第二審裁判所に控訴しましたが、第二審裁判所でも第一審の2つの判決が支持されました。よってDr. Suは出願後8年を経て、最終的にFacebookの異議申し立てを退け、FACEBOOKの商標登録を得ることに成功しました。

2019年に、Facebookは、その時点で登録済みとなっていたDr. Suの商標を排除する別の試みとして、2013年の中国商標法に基づいて無効の訴えを起こしました。この訴えは、異議申し立て時に主張したものと同様の根拠に加えて、Dr. Suの商標の使用が、商品およびサービスの品質、出自、またはその他の特性に関して、大衆の判断に容易に誤解を生じさせるという新しい根拠に基づいていました(2013年中国商標法第10.1.7条。これは旧法である2001年中国商標法の第10.1.7条と実質的に同一)。CNIPAは、すでに前回の異議申し立てでこれらの根拠には対処していると考えたため、第7条、10.1.8条、13.3条、30条、32条および44.1条に基づくFacebookの根拠に対してはコメントせず、Dr. Suの商標は第10.1.7条に違反するものではないと判断し、結果として、2020年2月25日にDr. Suの商標登録を維持しました。現時点で、Facebookがこの好ましくない無効判決に対して上訴したという知らせはありません。

その一方、Facebookの後願2件が、予期せず2014年4月21日と2015年4月14日に登録されることになり、Dr. Suはこれに対抗して、自身の確固とした先願商標に基づいて、これら2件の登録に対する無効審判を申し立てました。2020年3月20日に、CNIPAはFacebookの2件の後願商標を無効とする判決を下しました。これら2つの判決は、商業的視点からは驚かれるかもしれませんが、法的には単純明快な判決であり、法律を機械的に運用したとも言えます。その根拠となるのは、(i)Dr. Suは先願商標を所有している、(ii)両当事者の商標は同一であり、それぞれのサービスも同一または同様である、という議論の余地のない事実です(中国商標法第30条、「ある商標が、同一または同様の物品に関して、登録済みである、または審査後の仮承認を得ている別の当事者の商標と同一または同様である場合、商標庁は、当該商標の出願を拒絶し、それを公開しないものとする」という記載)。

これら2つの提示された判決は、Dr. Suが商標を不法取得しているとおぼしきこと、オンラインソーシャルメディアおよび情報技術の分野におけるFacebookの高い評判、さらに中国の消費者による認識の高さが考慮されていないという点で、違和感のある結果となっています。これはまた、2013年と2019年に、悪意ある出願を抑制するために中国商標法および規制に対して行われた改正が、本当のブランド所有者に公正さをもたらす効果を発揮できていないという事実を浮かび上がらせています。

商業的には、Facebookは現在、シンガポールの新しいデータセンターに10億米ドルを投じることで、アジアでの存在感を高めています。Facebookのデータセンターはアジア初であり、2022年のオープンを予定しています。これが中国企業による海外市場へのリーチを支援するという狙いがあることは間違いありません。

上記の判決に至った不透明な経路は、中国におけるFacebookの紆余曲折の歴史と並行しています。FacebookがDr. Suとの戦いを継続する中、中国市場に現在関心を寄せている、または将来的に関心を寄せる可能性のある他国のブランド所有者には、中国での広範な商標出願に早期かつ包括的に投資するように、改めて注意喚起する必要があります。

1 https://www.cnbc.com/2020/01/07/facebook-makes-a-new-ad-sales-push-in-china.html

https://www.investopedia.com/articles/investing/042915/why-facebook-banned-china.asp

3 https://www.bbc.com/news/business-44946497

https://www.fool.com/investing/2020/01/23/facebook-banned-in-china-how-it-makes-money-there.aspx

https://www.nasdaq.com/articles/facebook-is-banned-in-china%3A-how-it-makes-money-there-anyway-2020-01-23

https://www.edb.gov.sg/en/news-and-events/insights/innovation/facebook-s-us-1b-data-centre-in-singapore-to-open-in-2022.html

https://zh-hk.facebook.com/business/help/1889982597932544

https://www.nytimes.com/2019/02/07/technology/facebook-china-internet.html

この記事は最初に2020年8月11日に英語で公開されました


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