AIを使用した治療法の発明:人工知能は発明活動として認められるべきか?

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単独発明者として人工知能が指定された特許出願2件が、口頭審理の結果、発明者は人間でなければならないという理由により、欧州特許庁により拒絶されました。機械は真の発明活動を行えるのでしょうか?そうであるなら、結果的な技術の保護にどのような影響があるのでしょうか?

人工知能(AI)は、一般的に人間の知能が必要であると認められているタスクを実施する機械の概念として広く定義することができます。AIアルゴリズムは、データ、情報、さらにはそれ自身の決定から「学習」し、概念や関係性を高速で抽出することができます。AIは創薬パイプラインにますます組み込まれていっています。

最も一般的なアプリケーションは、顔認識や画像認識に使用されるものと同様のディープラーニングアルゴリズムを使用します。このアルゴリズムは、小分子の実験結果または3D構造や結合特性に関する情報を基に「訓練」され、これまで可能であると考えられていた以上の精度でターゲットの特異性を認識します。医薬品開発の初期段階におけるAIの使用は、候補選択の速度、精度および予測可能性を向上することができます。予測信頼度が少し向上するだけで、多額の節約につながる可能性があります。

創薬パイプラインへのAIの組み込み

AIを治療薬の開発に採用する場合、バイオテクノロジー企業は数多くの検討事項に直面します。これらの検討事項には、関連する高品質データへのアクセス、アルゴリズムの選択、データ共有のための他のバイオテクノロジー企業とのコラボレーション、既存のAI技術を活用するためのIT企業とのコラボレーション、医療データの共有に伴う倫理やプライバシーの問題、プロトコルの最適化と結果の評価のためにAIをある程度理解する生物学者や化学者の必要性、などがあります。所有権と発明者の権利に関する検討事項は特に重要です。

AIが創造した発明の発明者は誰か?

開発プロセスの初期に、ある分子が治療薬としての有望さを示した場合、該当する企業は一般的に、他社がそれを模倣しないように特許取得を試みます。特許の保護はイノベーションへ投資するために非常に重要です。特許出願では少なくとも1人の発明者を指定する必要がありますが、AIが「発明」した治療薬では誰が発明者となるのでしょうか。

ある出願人がこの疑問に対して意図的に実験を行い、その出願人が特許取得済みである機械「DABUS」を、2つの個別の発明の特許出願(欧州特許第18 275 163号および欧州特許第18 275 174号)の発明者としました。DABUS(device for the autonomous bootstrapping of unified sentience)は、その所有者により、一種のコネクショニストAIであると説明されています。DABUSは人工ニューラルネットワークを使用して概念を創造および評価し、自身の成功と失敗から学習する強化学習を行います。DABUSは、個別のニューラルネットワークを使用して、その創作物(食品容器および注意を引くためのパルス光源)の新規性および潜在的な進歩性を人間よりも先に認識していたと出願人は主張します。

欧州特許庁(EPO)は発明者の指定について疑問を呈し、出願人はその回答として、発明者とは発明の実際上の考案者であるとする英国特許法を引用しました。また出願人は、発明の実際の考案者を開示しないことは不誠実である;一部の管轄区域では非開示が違反と見なされる場合がある;AIが発明者になり得ることを受け入れないことは、AIによって創作された発明の特許可能性を排除することとなる;AIを発明者として指定することを妨げる判例法は存在しない、と反論しました。

2019年11月の口頭審理の後、出願には発明者の姓名および正式な住所を記載する必要があるという方式要件を満たしていないという理由で、この出願は拒絶されました。EPOは、欧州特許法は自然人および法人を規定していると主張しました。AIシステムには権利も法人格もないため、権利を移譲できないことを意味します。重要なポイントとして、EPOは、AIを発明者として指定することの問題は、特定の特許性の問題というよりむしろ、方式要件を満たさないことから生じることを強調しました。EPOは、複数の主要な管轄区域の法律を引用し、発明者が自然人であることの概念は国際的に受け入れられている基準であると主張しました。

法の改正は必要か

「自然人」である発明者を指定するという要件は、人間の発明者の権利を認め、保護することを意図するものであり、機械が発明活動を行えると想定されるはるか前に制定されたものです。発明者の権利と所有権は別個の問題であり、前者は後者を定めるために決定する必要があります。通常発明者は特許を所有しませんが、AIは法人ではないため、権利を移譲できず、企業は、AIが発明した発明の権利に対する潜在的な問題を念頭に置く必要があります。

技術開発におけるAIの関与すべてが、発明者としての機械の権利を保証するわけではありません。生物薬剤学業界の出願では、しばしば機械が多数の潜在的な候補を出力し、次に人間がそれらを評価し判断しなくてはなりません。よって、解決すべき問題を誰が特定したか、を決定することに意義があるかもしれません。これは、生物学者、プログラマー、あるいはその両者の可能性があります。その問題はすでに人間によって構築され、把握されていたか。AIは今や新しい概念を自律的に創造し、その新規性と潜在的な進歩性を評価することができます。人間が関与を合理的に主張できないのであれば、人間を発明者として指定した場合、真の人間の発明の価値を下げることにならないでしょうか。

特許要件の1つに、発明が、その特許が出願される前に当業者にとって「明白」であってはならないというものがあります。AIにアクセスすること、またはAIを仮説的な「当業者」としてに潜在的に認知することは、進歩性のしきい値を上げるという議論につながることが考えられます。とはいえ、AIが創造した技術を特許で保護できることは、イノベーションを奨励し、情報の普及を推進し、社会的に有用な製品の商業化を可能にするために欠かせないようにも思えます。

今後の展望

DABUSが創造した発明に対して、複数の国際特許出願が申請されています。これらの出願は、他の特許庁の立場を確認し、法律の見直しを進めるために利用される可能性があると考えられます。EPOの判決も上訴されるかもしれません。その一方、AIは治療薬の創作に革命を起こし、その発明能力は向上するとも考えられます。AI主導の治療薬開発プロジェクトを開始する前には、関連する特許法の変更にも注視しつつ、知的財産の発明者の権利と所有権についての議論を行う必要があり、できれば判断を下しておくべきでしょう。

この記事は2020年4月にAustralasian Biotechnology Journalで最初に公開されました。

この記事は最初に2020年5月21日に英語で公開されました


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