判例研究:H Lundbeck A/S v Sandoz Pty Ltd [2019] APO 18

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H Lundbeck A/S v Sandoz Pty Ltd [2019] APO 18(2019年4月11日)における最近のオーストラリア特許庁の判決で、Sandozは、Lundbeckのオーストラリア特許第623144号(「エスシタロプラム特許」)の実施を保護するための強制実施権の申請に成功しました。

背景

Lundbeckの大ヒット製品となった抗うつ薬であるエスシタロプラムは、Lexapro®として市販され、過去10年間にわたりオーストラリアの広範囲な特許訴訟の対象となっています。エスシタロプラム特許では、シタロプラムの(+)-エナンチオマーそれ自体と、その調製方法が特許請求の範囲です。シタロプラムは、(+)および(-)-エナンチオマーのラセミ混合物であり、LundbeckによってCipramil®として市販されており、初期のLundbeck特許の対象です。

2003年に、Lundbeckは、Lexapro®のオーストラリア薬品登録制度(Australia Register of Therapeutic Goods:ARTG)への登録に基づいて、エスシタロプラム特許の特許期間の延長を取得しました。しかしその後、オーストラリア連邦裁判所大法廷(Alphapharm Pty Ltd v H Lundbeck A/S [2008] FCA 559, 76 IPR 618)は、この延長はLexapro®のオーストラリア薬品登録制度への誤った登録に基づいたものであり、実際にはそれ以前のCipramil®のARTGへの登録に基づかなければならないという判決を下しました。

その結果、Lundbeckは、Cipramil®のARTGへの登録に正しく基づいた10年間の特許期間の延長を申請しました。期間の延長は2009年7月23日に公告され、2014年6月25日に期間の延長が付与されたので、エスシタロプラム特許の保護期間は2012年12月9日まで延長されました。しかしながら、エスシタロプラム特許の2009年6月13日の満期終了までに期間の延長が付与されなかったため、この不確定期間中に、Sandozを含む多数のジェネリックメーカーが、それぞれのジェネリック同等品を販売しました。

昨年末に、H Lundbeck A/S & Anor v Sandoz Pty Ltdの連邦裁判所の判決を報告しましたが、そこでSandozは、期間の延長の遡及的性質が原因で、エスシタロプラム特許を侵害していると判断されました。現在の訴訟は、規則22.21に基づいてSandozがエスシタロプラム特許を使用するライセンスを申請したことで発生しました。

ライセンスを付与すべきか

オーストラリア特許庁の決定の主な考察事項は、期間の延長を付与する前に特許が満期終了してしまったことを踏まえ、Sandozに、エスシタロプラム特許の実施を保護するライセンスを付与すべきかどうかでした。

特許規則1991の規則22.21は、特許法1990第223条(9)に基づいて延長された期間内で、「発明を実施、または発明を利用または実施するための契約またはその他の方法で明確な措置を講じた」特定の人物の保護または補償を提供しています。

特許法1990第223条(9)は、関連する行為に失敗したことが「原因で」、発明を実施した、または実施するための明確な措置を講じた第三者を保護する権限を長官に与えます。本判例においてその関連する行為とは、Lundbeckが期間の延長を折り良く申請することができず、その後に特許が終了していたことです。

ライセンスを付与すべきかどうか決定する際に、副長官は、第223条(9)から生じる以下の事項を考察しました。

  1. Sandozは、2009年7月23日以前に、発明を実施した、または実施するための明確な措置を講じたか?
  2. Lundbeckが特許の期間の延長を折り良く申請しなかったこと、あるいは特許が満期終了したことが実施の「原因」であったか?

副長官は、期間の延長が公告される前の、Sandozによるそのジェネリック同等品であるEsitalo®の輸入および販売は、発明の実施であると判断しました。さらに、副長官は、Sandozの特許期間が終了するだろうという確信は、彼らがジェネリック同等品の販売スケジュールを決定する際の主要な寄与要因となったであろうため、彼らの実施は、エスシタロプラム特許の終了が「原因」であると判断しました。

副長官はまた、規制22.21から発生する以下の状況について検討しました。

  1. Sandozは延長された期間中に発明を実施したか?
  2. 第223条(9)のすべての条件を満たした場合、ライセンスを付与するかどうかの裁量はあるか?
  3. ライセンスはどの条件で付与すべきか?

副長官は、延長された期間中に、Sandozは輸入によって発明を実施したが、販売による実施は該当しないと判断しました。そのため、第223条(9)の条件は満たされ、規則22.21(5)に従って、長官が「(ライセンスの)申請を付与すべきであると合理的に満足した場合」、ライセンスを付与する必要がありました。副長官は、ライセンスを付与するかどうかについては寛大な裁量があるという前回の判決(HRC Project Design Pty Ltd v Orford Pty Ltd [1997] APO 12, 38 IPR 121)に合意しました。

さらに、副長官は、ライセンスを付与するかどうかの裁量に関連して、以下の事項を検討しました。

  • Lundbeckが怠った行動の性質とその理由
  • Sandozが発明を実施することに至った経緯
  • LundbeckとSandoz両者の利益

Lundbeckは、特許法1990に定められている期間内に、Cipramil®に基づいた期間の延長を申請しませんでした。オーストラリア行政控訴裁判所(Administrative Appeals Tribunal:AAT)は、Lundbeckは戦略的な商業的理由から申請を遅らせ、LundbeckはSandozに、延長を申請する意図を知らせなかったと判断しました。前回の判決(H Lundbeck A/S v Sandoz Pty Ltd [2018] FCA 1797)では、ジャゴット裁判官はこうした行為が「この状況では…不合理である」とはしませんでした。

Sandozは、同社のEsitalo®製品の発売によってエスシタロプラム特許を実施しており、この製品の輸入はライセンスによってカバーされているものの、製品の販売はカバーされていないと判断されました。副長官は、輸入は実施と考えられないものの、2つの側面を分けて考えることには無理があるという意見でした。さらに、Sandozが保護を要求したかどうかに関する不確定性は、LundbeckがSandozを相手取って勝訴した侵害訴訟によって軽減されました。

Sandozにとって、ライセンスはLundbeckの侵害訴訟における救済として、相当の商業的価値があったはずです。そのため、副長官は、ライセンスを付与しない理由はないと判断し、ライセンスの申請を以下の条件に従って付与すべきであるとしました。

  • ライセンスにいかなるロイヤルティも伴わないこと
  • ライセンスは通常の特許期間が終了した日付から有効になり、その延長期間が満了となった日付まで有効になること
  • ライセンスはSandozに対して個人的なものであること(他者に譲渡または移転できないこと)

重要点

オーストラリアの特許制度は、特許権の喪失につながるおそれのある誤りを修正するための長い延長期間を許可する寛大さがありますが、特許権者は、長官による強制実施権の付与によって、第三者が実施に対する保護を申請できることを認識する必要があります。

この記事は最初に2019年7月30日に英語で公開されました


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