ニュージーランドの蜂蜜生産者にとって「バグベア(悩みの種)」となったオーストラリアの商標判決

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オーストラリア商標庁による最近の商標判決(Manuka Honey Appellation Society Incorporated v Lawrence Michael Howes [2021] ATMO 64(2021年7月7日)(「オーストラリアの異議申立」))により、ニュージーランドとオーストラリアの間で再び戦線が張られました。これは、ニュージーランドとオーストラリアの蜂蜜生産者の間での長年にわたる紛争の最新の動きです。

背景

「マヌカ」(Mānuka)という語はマオリ名で植物(和名)ギョリュウバイ(御柳梅)(Leptospermum scoparium)から取れる蜂蜜に使われています。ギョリュウバイから造られた蜂蜜は、他の蜂蜜とは異なり、味と抗菌・薬効性との両方において独特の性質を有しています。このため世界中で人気があり価格も割高になっています。

オーストラリアの異議申立人であるマヌカ蜂蜜名称保護法人Mānuka Honey Appellation Society Incorporated (「MHAS」)は、ニュージーランドの団体で、ニュージーランドの蜂蜜生産者のためにニュージーランド及び海外で「マヌカ」商標の所有権を確保することを目的として設立されました。

MHASが所有権を主張する根拠は、「マヌカ」の商標は、ニュージーランドにあるギョリュウバイから生産された蜂蜜を指しており、この蜂蜜はマオリ名で知られているということです。これは、ニュージーランドのマオリの人々との文化的および地理的な関連がある特性上、ニュージーランドの生産者がニュージーランドにあるギョリュウバイから生産した蜂蜜のみが「マヌカ」という用語を使用する権利を持つべきである、というMHASの主張の枠組みを形成するものです。

他方、ギョリュウバイはオーストラリアにもあり、同様の薬効を持つ蜂蜜もオーストラリアで生産されているため、MHASの所有権の主張は、オーストラリアの蜂蜜生産者によって激しく争われてきました。

オーストラリアでの紛争

オーストラリアにおける異議申立は、「蜂蜜」に関するのものでオーストラリア商標出願第1869737号、に対するものです。MHASが提示した重要な議論は、1995年商標法第43条に準拠しており、出願の対象となる蜂蜜製品はニュージーランドでミツバチによってギョリュウバイから生産されているという内在的な意味合いを持つため、この商標登録出願は拒絶されるべきというものでした。この意味合いのために、当該商標で「オーストラリア」と「マヌカ」という言葉を一緒に使用することは、本質的に矛盾しており、一般の人々に混同に繋がるとしました。

MHASと商標出願人の主張と証拠を検討した上、商標庁は異議申立は認められないと判断しました。証拠によると「マヌカ」という用語はオーストラリアのギョリュウバイに由来する蜂蜜に対して、少なくとも1930年代からオーストラリアの蜂蜜生産者によって使用されてきたことが示されました。これに基づき、商標庁は、「マヌカ」の使用は「地理的な起源ではなく、花に関係している」とみなされ、対象商標がオーストラリアの消費者の間で欺瞞や混同を引き起こす可能性は低いと判断しました。

オーストラリア判決において「マヌカ」の意味合いについて下された結論は、ニュージーランド公聴会事務局の副長官がManuka Honey Appellation Society Incorporated [2018] NZIPOTM 7(2018年3月20日)(「ニュージーランド判決」))で述べたコメントと対照的であったため、オーストラリアでの異議申立の結果は興味深いものです。

この判決において、副長官は次のように述べました。

「…蜂蜜が、マオリ名で識別される有名な自生樹木の蜜からの蜂蜜として名付けられているという事実は、その蜂蜜が特定の地理的起源(ニュージーランド)を有することを示すことができ、…」(Manuka Honey Appellation Society Incorporated [2018] NZIPOTM 7(2018年3月20日)、63)。

副局長はさらに、MANUKA HONEYを証明標章として登録することを許可することに賛成しました。

「…、証明標章で…、事実上、既存および将来の取引業者が標章を団体に譲渡して管理することになります。これを行う目的は、通常、地域外の取引業者による標章の使用を防ぐことです」(Manuka Honey Appellation Society Incorporated [2018] NZIPOTM 7(2018年3月20日)、68)。

ニュージーランドでのMHASの登録申請を受け入れるという判決は、Australian Manuka Honey Association Limited(「AMHA」)によって現在、異議申立てされており係争中です。副長官が証明標章としての登録を目的として、MANUKA HONEYの商標としての識別性を考察していたという点で、ニュージーランド判決における問題はオーストラリアでの異議申立で商標庁が考察した問題とは異なりましたが、上記は各国の利害関係者によって主張されている立場の対比を反映しています。

今後の展開は?

AMHAが、MHASによるニュージーランドでの証明標章としてのMANUKA HONEYの登録の成功を阻止するために、オーストラリアの異議申立における商標庁によるコメントを利用することは、間違いありません。ニュージーランドの法律では、外国産蜂蜜のニュージーランドへの輸入は禁止されていますが、ニュージーランドでの証明標章としての「マヌカ」の認識は、商標が地理的表示であるというMHASの主張の観点から、世界中でドミノ効果をもたらす可能性があります。

タスマン海を挟む両国における蜂蜜生産者の利害関係は大きなものであり、今後更なる展開があった際には最新情報を引き続き提供していきます。

この記事は最初に2020年8月12日に英語で公開されました


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