シンガポール、地域の知的財産紛争の解決を刷新

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シンガポールにおける知的財産(IP)紛争解決環境を刷新するため、知的財産権(紛争解決)改正法2019(「改正法」)が2019年11月12日に施行されました。この改正法は、特許保護フレームワークの強化と、国際仲裁ハブとしてのシンガポールの立場を補強することを目指すものです。改正法によってもたらされる法的な変更点としては、知的財産手続きの統合、知的財産紛争の仲裁、知的財産訴訟のファストトラックオプション、ならびに特許性に関する第三者による意見(情報提供)および特許付与後の再審査の改訂が含まれます。

I.          シンガポール高等裁判所における民事上の知的財産手続きの統合

これまで、シンガポールの知的財産庁(IPOS)、下級裁判所、および高等裁判所は知的財産紛争に対する管轄権を共有しており、その管轄は知的財産権の性質、要求される救済手段、および申し立ての金額により決定されていました。特に、高等裁判所は登録可能な知的財産権に関連する紛争に対してのみ排他的管轄権を所有していました。

改正法により、高等裁判所に対してすべての知的財産侵害紛争の排他的管轄権を認めることで、既存のプロセスが簡素化されます。特許、商標、意匠に関する登録可能な知的財産権の民事上の侵害、ならびに登録対象ではない著作権の侵害および商標の詐称通用行為などが、紛争の金額を問わず対象となります。以前は高等裁判所とIPOSが特許の非侵害の宣言を行う管轄権を共有していましたが、この権限は高等裁判所のみに帰属することになります。また、改正法により、高等裁判所がIPOSと競合管轄権を所有し、特許付与後の取り消し、ならびに特許、商標、登録意匠の無効化および植物品種の取り消しを審理できるようになります。

第一審における知的財産手続きの統合に加えて、控訴についての対応も改正法の実施により統合されました。シンガポールのすべての知的財産権に関して、IPOSが示した決定は許可を待つことなく高等裁判所に上訴可能になります。ただし、控訴裁判所を支配する高等裁判所に上訴するには、上訴の許可が必要です。

II.         知的財産紛争がシンガポールで仲裁可能であることが明確に

知的財産紛争がシンガポールで仲裁可能であることを明確に示す新しい条項が、仲裁法および国際仲裁法に追加されました。仲裁判断は、仲裁当事者間でのみ有効であり、世界全体における拘束力はありません結果的に、第三者が仲裁裁判所による見解に依拠し、別の訴訟手続きでその見解に立って進める、または侵害に対してその見解を述べることはできません。

III.        特許付与前の意見(情報提供)および特許付与後の再審査に関する改正

これまでも、特許出願が公開された後、ただし特許付与の前に、発明の特許性に関する第三者の意見を特許登録官に非公式に提出することは可能でした。改正法により、こうした特許付与前の意見の提出に関する正式手続きが導入されました。

さらに、IPOSによって付与された特許がより頑強で、精査に耐えるものとするため、付与後の再審査手続きが、限定的な根拠でのみ利用できるようになりました。特許権者の権利と公益のバランスを取るため、付与後の再審査オプションでは、取り消し請求より安価な代替手段を第三者に提供すると同時に、根拠のないまたは価値のない要求を認めない裁量権をIPOSにも与えています。

IV.       知的財産訴訟のファストトラックオプション

知的財産紛争解決フレームワークに関するもう1つの大幅な変更点は、知的財産紛争の訴訟に特化したトラックを導入したことです。このファストトラックオプションは、高等裁判所での訴訟を開始するリソースを持たない訴訟人、または訴訟の全期間の費用を負担することが現実的でない訴訟人向けとなっています。ファストトラックが成立すると、当事者は省略された手続きとコスト削減効果を期待できます。

全体として、改正法は、権利所有者がその知的財産権を行使するための手続きを簡素化し、それと同時に、第三者が異議を申し立てる際に費用効果が高い手段を提供すると言えます。特許権者に対しては、精査の対象となった特許権の強さと有効性とが保証されます。改正法は、国際商事仲裁地としてのシンガポールの立場を補完するものでもあります。

この記事は2020年3月17日にManaging IPで最初に公開されました。

この記事は最初に2020年4月2日に英語で公開されました


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