なぜ我々の創造物は創造できないのか

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Thaler v Commissioner of Patents [2021] FCA 879

オーストラリア連邦裁判所は、オーストラリア特許庁による先の審決を覆し、人工知能(AI)がオーストラリア特許出願の発明者になり得ると結論づけました。発明者であることの意味の境界を試す世界的な一連の事件の一つとして、この判決はAIを特許出願の発明者として認めた最初の判決であると思われます。

背景

Stephen L. Thaler氏(「Thaler」)は、2019年9月17日に、「強化された注意を引き付けるための食品容器および装置と方法」と題するオーストラリア特許出願第2019363177号(「本出願」)を出願しました。本出願は、内面と外面に対応する凸面と凹面のフラクタル要素を備えたフラクタルプロファイルを含む壁を備えた容器に関連しています。フラクタル模様により、複数のコンテナを相互接続によって結合できると同時に、グリップと熱伝達も向上します。珍しいことに、発明者欄にはThalerも他の自然人も発明者として記載されておらず、代わりに「DABUS、本発明は人工知能によって自律的に生成されました」と記載されてました。 DABUSとは、「Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience」(統一感性の自律的ブートストラップのためのデバイス)の頭字語です。

特許副長官(副長官)は、人(自然人または法人)だけが特許を与えられることができ、発明者からの所有権の委譲がない場合、発明者が出願人になると結論付けました。そして出願人は出願を譲渡される権利を持ちますが、一般には機械は資産を所有できないため、所有しないものを譲渡することはできないと理解されていました。副長官は、発明者は財産の受益権を持たなければならず、したがって、自然人でなければならないので、AIはオーストラリアの特許出願の発明者として指名することはできないと結論付けました 。

副長官の判決に関する弊所のより詳細な議論は、ここ here にあります。Thalerは、特許庁の判決をオーストラリア連邦裁判所に上訴しました。

判決

オーストラリア連邦裁判所のBeach判事は上訴を審理し、2021年7月30日にその判決を下しました。

要約すると、Beach判事は、以下のように結論付けました。

…私の見解では、人工知能システムは、特許法の適用上、発明者になることができます。第一に、発明者、は動作主名詞であり、動作主は発明する人または物になり得ます。第二に、そのように捉えることは、人間が発明者であると感覚的に言うことができない多くの他の特許性のある発明の観点からの現実を反映しています。第三に、特許法には反対の結論を示すものは何もありません。1

Beach判事は、「人工知能システムが発明者になることができるという主張に明確に反論する特定の規定は、特許法にない」と述べました。さらに、Beach判事は、英語の構造という意味合いで、発明者は動作主名詞であり、要求されている「実行者」は自然人である必要はないことを強調しました。

 「…「inventor、インベンター(発明者、発明するもの)」という語は法律や規則で定義されていないため、通常の意味を有します。この点で、「インベンター」という言葉は動作主名詞です。動作主名詞では、接尾辞「or」または「er」は、接尾辞が付けられている動詞によって参照される行為を行う動作主を名詞が説明していることを示します。「コンピューター(Computer、計算するもの)」、「コントローラー(controller、制御するもの)」、「レギュレーター(regulator、調節するもの)」、「ディストリビューター(distributor、配布するもの)」、「コレクター(collector、収集するもの)」、「ローンモア(lawnmower、芝を刈るもの)」、「ディッシュウォッシャー(dishwasher、皿を洗うもの)」は、すべて動作主名詞です。それぞれの例が示すように、動作主は者(人)でも物でもかまいません。したがって、人工知能システムが発明する動作主である場合、そのシステムは、「inventor、イベンター」と記載することができます」2

Beach判事はまた、「発明者」の概念は、特に技術発展に照らして、製造の態様と同様に、柔軟に解釈されるべきであるとしました。

「…特許法の概念を考えると、科学的発見が新しい技術を刺激すため、「製造の態様」の概念の拡大は、20世紀と21世紀の特許法の発展に必要な特徴であると言われています」(D’Arcy v Myriad Genetics Inc (2015) 258 CLR 334 at [18] per French CJ, Kiefel, Bell and Keane JJ)。 「発明者」の概念も同様に、柔軟で進化的な方法で見られるべきで、そうしない理由が私にはありません。結局のところ、「[新しい]製造の態様」と「発明者」という表現は、21 Ja 1 c 3 (専売条例(Statute of Monopolies)) 1623年 (Imp) 第6条に由来します。両方が柔軟に扱われることで、対称性はなくとも相乗効果が出てきます。確かに、一方について柔軟であり、他方について柔軟でないことはほとんど意味がありません。「製造の態様」に柔軟性を与え「発明者」を制限すると両立しなくなります。さもなければ特許可能な発明を認識する一方で発明者がいないことを理由に特許不可とすることになります。」3

Beach判事は、また、1990年特許法も第2A条の新たに導入された目的条項に照らして解釈されるべきであると考えました。「この特許法の目的は、技術革新と技術の移転および普及を通じて経済的福祉を促進するオーストラリアの特許制度を提供することである。」4 そのため、発明者を自然人のみに制限することは、この根本的な目的に反するとしました。 

Beach判事は、また、AIによって開発された発明には、AIによって開発されたいかなるものの所有権をそのAIの所有者の手に委ねる継承法(law of accession)が適用されると結論付けました。特に、Beach判事は、発明者が権利を譲渡する必要はなく、所有者が発明の権利を譲渡される権利のみがあることを強調しました。

「私の見解では、Thaler博士はDABUSの所有者および制御者として、DABUSが創造した発明を入手した瞬間、それを所有することになります。この場合、Thaler博士はDABUSを介してDABUSから本発明のを入手したとみられます。そして、Thaler博士が発明を入手した結果、DABUSの所有および制御と相まって、一見したところで発明の所有権を取得しました。DABUSから本発明の入手を引き出したことにより、Thaler博士は一見したところ、所有権を得ました。この点で、所有権は、最初から発明者以外に権利が与えられているにもかかわらず、発明者から引き出すことができるのです。つまり、発明者が発明をかつて所有していた必要はなく、譲渡によって所有権を取得する必要もありません。」5

これらの理由に基づいて、Beach判事は、DABUSはオーストラリアの特許出願の発明者として実際に指名できると結論付けました。その結果、Beach判事は、オーストラリア特許庁によるさらなる査定のために、このオーストラリア特許出願を審査過程に戻しました。

最終の考察

この事件について聞くのは、これが最後ではないでしょう。特許庁長官はBeach判事の判決を連邦裁判所の大法廷に上訴しました。この判決は、DABUSを発明者としているThalerの対応外国出願において、米国、ヨーロッパ、および英国の当局が下した判決とはまったく対照的です。連邦裁判所の判決が支持された場合、オーストラリアの特許法のこの進展によって、AIを発明者として挙げるオーストラリアの特許出願が増加するかどうか、またこれによりまったく新しい商取引の分野がもたされるかどうか、を確認することも興味深いでしょう。

さらに、この判決で初めて新たに導入された目的に関する第2A条が司法上で考察されたことになります。特に、2019年8月15日付の特許商標弁護士協会(IPTA)による意見書は、以下のように述べています。「IPTAは、また、1990年特許法への目的に関する条項を導入することに強く反対しています。なぜなら、これは不要であり特許適格性のある対象の範囲を潜在的に狭め企業に重大な不確実性をもたらすからです。」 この意見書は、上院経済常任委員会によって採択されず、その後1990年特許法に第2A条が導入されました。第2A条がオーストラリア特許法における創造的な議論のための、将来の源泉になるかどうかを確かめることは興味深いでしょう。

脚注

1 Thaler v Commissioner of Patents [2021] FCA 879, [10]

2 同上, [120]

3 同上, [121]

4 Patents Act 1990 (Cth) s 2A

5 Thaler v Commissioner of Patents [2021] FCA 879, [189]

この記事は最初に2020年8月13日に英語で公開されました


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