2016年7月28日にタイ商標法(No.3)が施行されて以来、商標所有者は庁費用の20%増額料金を支払うことで、徒過した当該期限日から6ヶ月以内に登録更新申請を行うことが可能となりました。この6ヶ月間の更新猶予期間は、タイの登録商標所有者の多くにとって非常に有利となっています。ただし、登録名義人が更新期間の前に別の事業体と合併した場合、この合併は遅延更新料金の支払いと共に記録される必要があります。
事業合併のなぞ
事業合併は、タイ国内外の様々な法律において十分に規定されている取引ですが、タイ知的財産局は、企業の合併による商標の移管を特定的に認めておらず、そのような案件は譲渡として分類してきました。これは、商標の出願および登録における権利の移転を扱うタイ商標法の規定(第48条および第49条)が、譲渡および相続の観点からの移転のみを規定しているためと考えられます。よって、商標所有者が合併譲渡により取得した商標に対して法的保護を得るためには、商標の譲渡に関する法律および規制を遵守することを余儀なくされます。
譲渡登録に通常必要なもの
譲渡証明は書面にて、知的財産局(DIP)の商標部に提出されることが法律で義務付けられています。DIPの規則では、商標の譲渡を記録するためには譲渡人または譲受人が譲渡の記録のための申請を1)譲渡証明書の写しの公証済みの原本、そして2) 登録証明証(登録商標用)の原本と共に提出する必要があります。また、記録の申請が代理人一名を通じて提出される場合、その代理人は譲渡人と譲受人の両方の代理人となるため、3)譲渡人および譲受人それぞれに対して公証済みの委任状を提出する必要があります。
シシュフォスの岩
多少なりとも会社法についての知識を持つ人は、上記の手続き上の要件から、一連の矛盾を察知することでしょう。事業合併とは定義上、一方の企業が他方の企業に吸収される結果として単一の事業体になることです。吸収される側の企業(または、タイ商標法下では譲渡人)はその時点でもはや存在していないため、譲渡記録を行う代理人が譲渡人から委任状を取得することは不可能となります。当該登録商標に対して記録簿に未だ登録されている代理人(記録を行う代理人と異なる場合)は、譲渡人がすでに存在しないゆえに譲渡人の代理人の役割を果たす権限を失い、記録を行う代理人にその権限を引き継ぐこともできません。つまり- nemo dat quod non habet(自分が有しない物を与えることはできない)。言い換えれば、合併の記録においては、誰にも譲渡人の代理人を務めることができないのです。さらに、譲渡証明書は、同一文書上に譲渡人と譲受人両方の署名が記されているものの原本を提出しなければなりません。事業合併の際の商標の移管は合併契約書を通じて成立する可能性が高いため、多くの場合、合併契約書の原本の提出は企業にとって望ましくありません。その際、詳細な契約書の代わりにしばしば新たに署名された略式の契約書が提出されます。しかし、譲渡人がもはや存在していないため、新規の略式契約書も合併を記録するために利用することができないのです。
この問題は更新猶予期間中に更新申請と共に合併記録申請が提出された場合、さらに複雑になります。上記の通り、商標の更新は、徒過した当該期限日から6ヶ月以内に可能となっていますが、DIPのシステム上、更新猶予期間中に登録証明証の複製を印刷することが許可されていません。通常の譲渡記録申請においては、証明書の原本の紛失や、容易に準備ができなかったなどの理由で、譲渡記録の形式要件を満たすために証明書の複製を入手することが可能です。しかし、記録申請が更新猶予期間中に提出される場合、これをすることができません。
物語の教訓 – 弊所の提案
以上のことから、タイの登録商標の所有権の譲渡を伴う事業合併が予想される、または行われた場合は、当事者がその譲渡を早期に記録する必要性を考慮し、以下の手順を取ることを強く推奨します。
- 譲渡記録を扱うタイの商標代理人を指定すること;
- 上記代理人を指定した委任状に、吸収される側の企業(現在の商標登録所有者)が署名をすること;
- 吸収される側の企業が存在しなくなる前に、略式の譲渡証明書を作成し、当事者両方が署名すること;
- 更新猶予期間中に合併の記録を申請することを避けること;そして
- 更新猶予期間中の記録が不可避の場合は、登録証明書の原本の所在の確認をしておくこと。
この記事はManaging IP – 2019年2月版で最初に公開されました。
この記事は最初に2019年2月20日に英語で公開されました
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