従業者が創出した知的財産の落とし穴

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中国におけるR&D活動の不要な損失の予防

近年ますますヨーロッパの企業が研究開発活動を中国に移してきています。ある企業では、中国でのR&Dは、とりわけ中国またはアジアの市場でのイノベーションに焦点を合わせており、またある企業では、グローバルR&D拠点を中国に移し、中国の人材を活用してグローバルな研究コミュニティを多様化させようとしています。スプルーソン&ファーガソンのプリンシパルであるオリバー・ルッツは、欧州商工会議所の会員として長年に渡って活動してきました。2007年以来、中国におけるR&DIPの問題に関して、欧州商工会議所の知的財産権ワーキンググループの活動に貢献してきました。2010年から2013年まで上海のワーキンググループの議長を担当していました。中国でR&D活動を始めるにあたって気をつけるべき落とし穴に関して、オリバー・ルッツが過去にバイエル(中国)の知的財産統括を行っていた経験と現在の職務による知見に基づいて解説します。

落とし穴1:不十分な知的財産認識と従業者教育

中国ビジネスを取り巻く環境は急速に変化しており、企業は全力で取り掛かり、絶えず軌道修正をすることが求められています。後発組はしばしば先発組に対して不利になります。このため、多くの企業が非常に短期間のうちにR&D機能を設け、R&Dセンターさえも用意し、時間的な制約があるなかで立ち上げの時期に非常に多くの科学者を雇用しています。しばしばこのようなチームは、新たに立ち上げられた施設において、迅速に結果を出すという重圧に晒されることになり、現地の知的財産サポートはないか、あっても活用する時間がなくなっています。これは、特許されないため、貴重な発明の損失となります。更に、多くの新たに雇用された科学者たちは、現地の人材かまたは米国から帰ってきた人材であり、しばしば中国の特許法に関する知識を欠如しています。

例えば、米国とは異なり、中国では発明をなんらかの形で公開してから特許を出願することはできません。公開による特許性の欠如により、多くの国々で知的財産が失われてしまいます。また多くの科学者たちは、発明を公開したり、機密保持契約をせずに発明を顧客に開示する前に、質の高い特許を得る必要性を十分に認識していません。

新しいR&D部門から発明を得るために、以下の対策が必須となります。1) 科学者の立場に立って話すことができる特許担当者による科学者のトレーニング 2) 発明報告書に対する書類化及び評価制度の確立 3) 雇用契約書を見直し、機密保持義務、インセンティブ及び知的財産の所有権に関する条項を設ける(従業者はこれに関してトレーニングを受ける必要がある)4) 知的財産が現地の出願及び国際出願の要件を満たすように、特許の作成の際には特許担当者に相談すること。

最後に、経営陣は、持続可能で革新的なビジネスのために、ノウハウ及び知的財産の保護の重要性を絶えず強調する必要があります。また、R&D部門の者が知的財産の創出に焦点を合わせ、報告を行うことを重要な目標とする必要があります。

落とし穴2:中国の特許法に従わないことによる誤り

中国の外で特許の明細書を用意して出願するために、発明を中国の外の本社に報告するのは、中国における知的財産の損失という結果になる大きな誤りの一つです。中国の外の知的財産担当者は、国際的な水準を満たす先進的な特許明細書を用意して出願する経験が豊富かもしれませんが、このような手続きは中国の特許法の法令に違反しています。中国で完成した全ての発明は、中国の国外に出願される前に中国特許庁(SIPO)による非公開の審査を受けるか、又は最初に中国特許庁に出願されなければなりません。この法令に従わない場合、この発明に基づく中国の全ての特許は無効となります。この問題を回避するためには、発明の中国語の明細書全文を用いて非公開の審査を請求する(2週間かかります)か、または中国特許庁に最初に特許出願をする必要があります。この特許出願は、その後英文の明細書により国際特許出願(PCT出願)として出願することができます。

落とし穴3:知的財産の所有権、又は所有権を雇用者に移転した後に支払う対価について、従業者との間で生じ得る紛争

中国における著作権及び特許の所有権には、特別な注意を向ける必要があります。複雑な例外及び限定を除き、雇用契約書に規定がない場合、著作権は通常著者である従業者に帰属し(著作権法11条)、雇用者には帰属しません。この雇用者にとって通常好ましくない原則の例外には、雇用契約の家庭において創出された特別な著作物の基準を満たす著作物が含まれます(著作権法16条)。これらの著作物には、雇用者の素材及び技術的な手段を使用して創出された著作物、雇用者の責任のもとで創出された著作物が含まれます。このような特別な作品は自動的に雇用者に帰属します。このような作品には、例えばコンピュータソフトウェア、製品図面、又は商品設計図面が含まれます。しかしながら、著作物の所有権が完全に雇用者に帰属するように、雇用契約書においてその旨を明確に規定することを強く推奨します。

特許され得る発明は、職務発明であれば譲渡契約なしで自動的に雇用者に帰属します。雇用期間中に雇用者の監督の下で創出された発明は、通常職務発明の基準を満たします。しかしながら、この基準を満たさない発明は、非職務発明として法律上従業者に帰属します。

発明の所有権は通常明確にすることができるので、紛争となることは稀です。しかしながら、近年欧州商工会議所知的財産権ワーキンググループで話し合われてきたテーマは、所有権が雇用者に移転した後の発明者の権利について明確な法令及び規則が存在しないことです。

中国では、発明が特許査定を受け商業利用される場合、雇用者が報奨を支払うと規定されています。特許法によりますと、特許発明に対して適用される法令では、特許査定に対して3,000人民元と、発明を利用した商品の利益の2%と規定されています。これらの法令の規定は、職務発明の国内規制の草稿によると、著しく上昇させる(例えば利益の5%まで上げる)ことが検討されています。法令の不明確さと、金額を急激に上げようとする法整備は、多くの業種にとって適しておらず、この法令から免れる手段が必要です。

幸運なことに、企業が発明者と報奨に関する個別の契約を結ぶこと、又は発明者の報酬に関する会社方針を法律に基づいて制定することが可能です。個々の発明に対して個々の契約を結ぶことは雇用者にとって大きな負担となるので、後者が望ましいと思われます。これらの方針は、現行法では不明確な全ての詳細、例えば元従業者への支払い、共同発明者の中での分配等を規定する機会 を雇用者に与えてくれるものとなります。

中国の政府官僚や裁判官は、欧州商工会議所の会員に対してしばしばこのような契約や会社方針が従業者との紛争において功を奏すると述べていますが、依然として大きな問題が残っています。どの契約も方針も、従業者によって「不当である」として異議を申し立てられる可能性があります。その内容が法令の規定と大きく異なる場合は特にその可能性が高まります。それゆえ雇用者は、報奨の方針を書く際には外界に晒されリスクを伴うこととなります。しかしながら、全ての企業活動に対して、法令の文言に従う不確定な実務に従うのではなく、公式な会社方針又は他の契約を通じて従業者且つ発明者への報奨額を規定することを強くお勧め致します。さもないと、好ましくない紛争という結果となるかもしれません。

オリバー・ルッツ博士は、スプルーソン&ファーガソンのプリンシパルです。スプルーソン&ファーガソンは、シドニー、シンガポール、バンコク、クアラルンプール、ジャカルタ、そして上海の駐在員事務所からアジア太平洋地域全域の知的財産関連サービスを提供する有数の知的財産グループ企業です。弁理士、商標担当者、知的財産弁護士を含め300名を超えるチームを擁するスプルーソン&ファーガソンは、この地域において多くの案件を担当可能であり、知識及び経験豊富な稀有な知的財産事務所の一つです。

この記事は、中国の欧州商工会議所の雑誌であるEURObizの9月/10月号において最初に公開されました。

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