長年に亘って国際的に待望されてきたミャンマー初の特化した商標法の制定が、連邦議会法律番号3/2019(以下「新法」と記載)として、2019年1月30日に承認されました。現時点で大統領は新法に同意済みのため、今後新法第1条(b)に基づき大統領の指示が下され次第、完全に有効となります。
弊所では、過去の記事ミャンマー最新情報:新商標法の公布及びミャンマー最新情報:新商標法の公布(パート2)にて、新法への移行の準備についての勧告を提供してきました。今回の更新情報は、クライアントの皆様が、まもなくミャンマーで有効となる新たな商標保護の制度を理解するための一助となることを目的としています。参照に便利なよう、新法に関連する規定を以下にまとめました。
1. 新機関設立
中央委員会 (Central Committee)
第4条(a)は、国の知的財産の課題に関する政策、戦略および事業計画、そしてミャンマーの知的財産システムの発展を目的とした国内機関および国際機関との調和を担当する中央知的財産権委員会の設立をミャンマー政府に義務付けています。委員長は副大統領が務めますが、知的財産の専門家やNGOの代表らが、委員会のメンバーに含まれます。
公務局 (The Agency)
第6条(a)により、中央委員会 (Central Committee)は地方組織と提携し、中央委員会により定められた国の知的財産政策を実施するための知的財産公務局(Intellectual Property Agency)を設立するように義務付けられています。また、知的財産公務局は登録官の拒絶理由に対して商標出願人が申し立てを行った際に、それを検討する重要な責任を担います。
総局 (The Directorate)
新法第9条は、知的財産登録簿の管理を行う総局(The Directorate) の設立を求めています。
登録官および審査官
登録官と審査官は、商務省によって任命されます。審査官は、商標出願人が提出した出願および異議の審査、疑問点に関する証拠書類の提出指示、ならびに登録または拒絶についての推奨を登録官に提出することが職務となります。 登録官には、商標出願の登録または拒絶についての最終決定を下す権限が与えられます。
弊所からのコメント
現時点では、上記の新機関はどれも設立されておらず、これら新機関の事務所がどこ(ネピドーまたはヤンゴン)に設立されるのかすら不明なままです。新機関の設立と新法に基づいた訓練を必要とする新しい職員の雇用には、かなりの時間が必要とされます。よって、大統領の通知により新法の施行日が定められるのは、2019年9月より前になることはないと思われます。
2. 登録手続き
新法第15条から第22条は、商標の出願手続きを次のように規定しています:
- 商標登録の出願は、ビルマ語または英語のどちらかで、総局 (The Directorate) に提出されなければなりません。
- 最近の法改正により、ミャンマー政府機関に提出される書類は全てビルマ語に翻訳されることが求められるようになったため、弊所ではビルマ語での提出を推奨します。しかし、審査官は場合により出願を英語に翻訳するよう要求することができます。ミャンマーでは、商標登録目的で代理人に委任することで、代理人が出願人に代わって翻訳の正確さを証明できる権限を与えられます。
- 出願は、出願人の氏名と住所(出願人が法人の場合はその種類と登録番号)、標章の明確な説明、請求される物品/サービスの説明(ニース国際分類に則ったもの)、および優先権主張の有力な証拠を提示する書類を明示する必要があります。
- 第17条(b)(4)では、商標が以前登記所に登録されていた場合、その登録を証明する書類(すなわち印紙貼付済の正式な所有権宣言の原本)も新法に基づいた出願とともに提出するよう求めています。
- 出願日は、当該出願が総局(The Directorate) によって受領された日となります。
弊所からのコメント
第17条(b)(4)は、以前登記所に登録されていた商標に一定の優先権を認めているようです。しかしながら、この点については、どれほど遡って優先権主張が可能なのかは明示されていません。以前登録された所有権宣言と新法に基づく新規登録の関係は、まだ制定されていない施行規則において正式に対処されると予想されます。ただし、この点は未だ明確ではないため、優先権についての疑問点から生じる混乱を回避するためにも、現在の商標所有者には新法の施行初日またはその直後に商標登録を再出願することを強く推奨します。
新法第15条から第22条は、審査および商標登録の手続きを次のように規定しています:
- 審査官が形式的または実体的な要件のいずれかにおいて、出願に不備があると判断した場合、審査官はこの判断を出願人に通知し、出願人は通知を受け取った日から30日以内に不備を修正できます。30日の期限までに修正書を提出しなかった場合、出願の権利が失われますが、出願人には権利喪失から60日以内でしたら出願の復活を申請する機会があります。
- 形式的及び実体的要件がすべて満たされたとみなされると、登録官が出願の公告を命じます。60日間の公告期間中、庁費用を支払うことで誰にでも異議申立をすることが可能です。登録性の事由に関しては固有のものと相対的なもの両方が申立人によって提起可能です。
- 異議申立がされなかった場合、登録証明書が発行されます。
3. 先願主義
- 何人かの出願人が同一または類似した標章を異なる日に商標登録申請した場合、第19条によると、最も早い出願日(又は該当する場合は、最も早い優先日)を持つ標章の登録が登録官に義務付けられています。
- 何人かの出願人が同日に同一または類似の商標登録申請した場合、登録官の指示で当該出願人が協議を行い、その結果達した合意に従って出願を修正し再提出することが第20条によって義務付けています。出願人間の合意が得られない場合、登録官が最終判断を下します。
4. 優先権
- 第31条では、出願人が外国出願に基づいた優先権主張をすることを認めていますが、その優先権出願は、ミャンマーでの出願日の6ヶ月前より後にパリ条約またはWTOの加盟国に出願されていなければなりません。
弊所からのコメント
現時点では、新法施行の初日以降、商標出願の審査がどのように開始されるのかは不明です。パリ条約に基づく優先権主張ができることを踏まえ、関連するすべての優先商標がミャンマーに移行され、類似性審査が包括的になることを確実にするよう、総局 (The Directorate) は優先権主張なしの出願に関しては出願日から6か月後以降にのみ審査を開始するのでしょうか?弊所では、上記の登記所でなされた登録に基づく優先権主張と同様、優先権についての疑問点から生じる混乱を回避するためにも、施行初日またはその直後に出願を行うことを推奨します。
5. 標章の登録可能性
第2条(j)は、標章の定義を物品またはサービスをその他の物品またはサービスとは異なるものとするような、固有の名前、アルファベット、数字、形のあるデザイン、および色の組み合わせなどを含む目に見えるあらゆるマーキング、としています。そのため、聴覚および嗅覚に依存する標章は、新法下での保護から除外されています。商標、サービス標章、団体標章、および証明標章が、新法下で認められる標章の種類です。
第13条および第14条では、とりわけ、下記の事項を含む商標の拒絶事由について述べられています:
- 標章に識別性が欠けていること。/li>
- 標章が、主張される物品/サービスの種類、品質、数量、用途、価格、原産地、生産時期、またはその他の特性に対して説明的なものである場合。ただし、出願人が次のいずれかを示すことができる場合は、当該の説明的標章を登録することが可能。
- 使用を通じて当該商標が識別性を獲得した場合、または
- 出願人が、ミャンマー国内での関連商業において、正当に、継続的に、かつ単独で標章を使用している場合。
- 標章の登録が、ミャンマーの平和、安定、または道徳規範を混乱させる恐れがある場合。商標がこの事由により拒絶された場合は、第52条に基づき、刑事罰を伴い、かつその使用が禁止されます。
- 標章が、現在もしくは日常の使用において普及している語彙となっている場合。
- 全体的、または部分的に、標章が国家または国際的な政府機関の旗、記念物、象徴、あるいはイニシャルと同一または類似する要素から構成されている場合。
- 標章が、同一または類似の物品/サービスにおいて他者により登録または出願された以前の標章と同一または類似している場合。
- 商品/サービスの類似性にかかわらず、出願人が有名な(よく知られた)商標の所有者と関連がある場合に、標章がその有名な(よく知られた)商標と同一または類似している場合。
- 出願が悪意を持って提出された場合。
6. 中間手続きと申し立て
- 第21条は、出願人に対し、庁費用を支払うことで誤植の補正、分割出願の提出、また最初に請求した商品/サービスをさらに限定することを許可しています。
- 親出願が後日分割された場合、親出願の出願日がすべての分割出願に適用されます。
- 第65条に基づき、出願人が登録官の拒絶理由に同意せず、かつ登録官の指示に従った訂正の提出を望まない場合、出願人は登録官による拒絶理由の発行後60日以内に公務局 (The Agency) にその決定に対する申立を行うことができます。この申立にて、追加の証拠を提示することが可能です。
- 第66条に基づき、出願人が公務局 (The Agency)の決定に同意しない場合、出願人は公務局の決定を受領してから90日以内に関連裁判所に上訴することができます。
7. 登録期間および更新
- 第34条は、商標登録は出願日から10年間有効であると定めています。
- 第35条は、商標登録の更新申請を、期限前の6か月以内のいつでも提出ができるとしています。また、期限徒過後6ヶ月間の更新猶予期間が第35条(b)に基づいて定められており、追加の庁費用を支払うことにより、期限徒過後の更新が可能となります。
商標登録によって付与される権利、商標の取り消し、商標の実施権、および侵害に対する法的手段に関する本最新情報のパート2を近いうちに発行する予定です。
引き続き情報をお待ちください。また、ミャンマーでの商標保護について更に情報がご必要な場合は、弊所までお気兼ねなくお問い合わせください。
この記事は最初に2019年3月13日に英語で公開されました
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