オーストラリアの特許制度には、発明の開示が特許出願の新規性や進歩性に影響を与ない「猶予期間(グレース・ピリオド)」があります。この猶予期間は、標準特許または革新特許が、開示から12か月以内に出願された場合に適用されます。猶予期間は、下記に該当する場合の発明の開示が対象となります:
- 出願人によるもの
- 出願人の同意を得て開示されたもの、または
- 出願人の同意なしに開示されたもの
本質的に、上記の開示は特許出願の中間手続きの間は無視することができます。オーストラリアの猶予期間に関する規定は、1990年特許法の24条(1)(a)に記載されています。24条(1)(a)では、次のように述べられています。
一定の情報公開は有効性を与えない
(1) 発明が新規性,進歩性又は革新性を有しているか否かを決定する目的で,その決定をする者は,次の事項を無視しなければならない。
(a) 公衆が利用することができるようにされた情報であって,名義人若しくは特許権者又は名義人若しくは特許権者の前権原者によって,又はその同意を得て,所定の状況の下で行われた発明の公開又は使用に起因するもの,及び
(b) 公衆が利用することができるようにされた情報であって,名義人若しくは特許権者又は名義人若しくは特許権者の前権原者から情報を取得した他の者が,名義人又は特許権者の同 意を得ることなしに行った発明の公開又は使用に起因するもの
ただし,前記の規定は,その発明に係わる特許出願が所定の期間内にされる場合に限る。
2018年12月30日以前は、ニュージーランドではそのような規定がありませんでした。そのため、出願日前12か月以内の発明の開示は、無許可の開示または妥当な発明の試用といった特定の状況下でのみ無視することが可能でした。
しかし、2018年10月25日の「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」の承認後、ニュージーランドは12か月の猶予期間規定を特許法に導入し、これは2018年12月30日に施行されました。
この猶予期間の規定は、特許法9条(1)(f)に下記のように定められています:
開示は一定の事情において無視される
(1) 第 8 条の適用上,発明を構成する事項の開示は,次に掲げる事項の1つ以上が該当する場合は無視されなければならない。
(f) 開示が,特許出願日の直前1年間の何れかの時点で行われ、次に掲げる何れかの者により行われたものであること:
(i) 特許権者又は被指名者;
(ii) 特許権者又は被指名者に権利を与えた者;
(iii) 特許権者又は被指名者の同意を得ている者;
(iv) 特許権者又は被指名者に権利を与えた者の同意を得ている者。
これで、ニュージーランドの猶予期間に関する規定はオーストラリアの猶予期間に関する規定と並ぶものとなります。
この新たな規定は、出願人および発明者からのどのような開示にも、また出願人および発明者の同意を得ての開示にも適用されるように見受けられます。そして発明の無許可の開示または妥当な試用に対しても、今もなお適用されます。
同様に重要な点が、猶予期間は遡及的に適用することができず、2018年12月30日以降に行われた開示にのみ適用されることです。つまり、特許出願の出願日にかかわらず、2018年12月30日以前の開示にこの猶予期間に関する新規定は適用されません。
2018年12月30日以降に出願された特許出願の出願人には、これにより、自己開示に対応するための仕組みが提供されたこととなります。上記の要件が満たされている限り、不注意による自己開示は特許出願の審査中に考慮されうる先行技術にはなりません。これは特許出願人にとって心強い進展です。
他の区域や国には、猶予期間の規定がある場合とない場合があります。例えば、ヨーロッパや中国には猶予期間の規定はありません。そのため、猶予期間の規定には頼らないことが好ましく、最後の手段としての使用に限ることが望ましいでしょう。
この新展開に関してご不明な点がございましたら、弊所までお気軽にお問い合わせください。
この記事は最初に2019年1月29日に英語で公開されました。
弊所では一般的なお問い合わせや見積もりの際にご利用いただける日本語担当窓口を用意致しております。
日本語のお問い合わせを直接 JapaneseDesk@spruson.com 宛にお送りください。技術系のバックグラウンドを持つ日本語窓口担当者が迅速にお返事致します。
出願のご指示等につきましては、通常のメールアドレスに英語でお送りいただけると幸いです。