今年初め、シンガポール控訴裁判所は、シンガポール特許法を含むシンガポールの法律下では特許取消しの問題に関する第一審管轄権は高等裁判所には与えられていない、とした高等裁判所の決定を覆しました。
Sunseap Group Pte Ltd and Others v Sun Electric Pte Ltd [2019] SGCA 4 は、高等裁判所が特許取消し申請の審理および特許取消し命令を行う際の第一審管轄権を持たない、としたシンガポール高等裁判所の判決からの上訴審です。特許取消し申請はすべてまず最初に特許登録官によって審理されなければならず、登録官の決定を上訴する場合のみ高等裁判所が審理を行うことができる、というのが高等裁判所の判決でした。
控訴裁判所は高等裁判所の決定を覆し、高等裁判所は特許取消し申請の審理をする権限および特許を取消す権限を有すると判断しました。しかしながら、控訴裁判所の決定では、特許の取消しに関する高等裁判所の権限は、侵害訴訟における反訴または答弁によって取消し手続きが起こされた場合のみに限定されることが明確にされました。
高等裁判所の特許取消しの権限に対する法的根拠に関して、控訴裁判所はシンガポール特許法第80条(1)を引用し、被告人が特許法80条(1)のいずれかの根拠に基づき当該特許の全てのクレームの無効性を成立させることができた場合、被告人は当該特許の無効性を確立したことになることを用いています。控訴裁判所はさらに、特許取消しの根拠が被告人によって確立された場合、特許法第91条(1)により特許を取り消す権限が高等裁判所にあることを言明しました。
また、第一審管轄権に関して控訴裁判所は、侵害訴訟とは無関係に行われる特許取消し手続きに関してはシンガポール特許法(特許法82条(1)および82条(2))によりその権限が除外されるため、高等裁判所には第一審管轄権はない、と判断しました。
さらに控訴裁判所は、高等裁判所は侵害訴訟での答弁または反訴としてその特許全体の有効性に対する異議が申し立てられた場合にのみ、特許を取消すことができると述べました。特許全体の有効性が問題ではない場合(すなわち、侵害訴訟において特定のクレームのみが対象となっている場合)、高等裁判所は特許を取消す権限を持ちません。この場合、特許登録官に特許の取消しを求めることが被告人の唯一のすべとなります。
特許全体が問題になるという点に関して控訴裁判所は、特許の独立クレームすべてが対象となりそれらが無効と認定された場合についても検証しました。控訴裁判所はこの場合、すべての独立クレームが無効であれば、従属クレームも無効でなければならないと結論づけました。それにより特許全体を無効とみなすことができ、それを高等裁判所が取消すことは適切である、と続けました。高等裁判所が特許を無効にする権限を有するという状況が示されたわけですが、この状況は、特許権者がそれを認めた場合のみ従属クレームが独立クレームと共に有効になったり無効になったりする、というシンガポールおよびイギリスの以前の判例とは異なっています。
よって、特許取消しの第一審管轄権は特許登録官の管轄であるという高等裁判所の決定は多くのシンガポールの弁理士・弁護士にとっても驚きだったのですが、侵害訴訟における答弁または反訴によって特許全体の有効性が問題であることが高等裁判所に提起された場合、高等裁判所にも特許取消しの第一審管轄権があることが控訴裁判所によって明確にされました。
この記事は“Managing IP”で最初に公開されました。
この記事は最初に2019年3月22日に英語で公開されました
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