一部の外国の特許庁での実体審査の結果が基本的に認められるシンガポールの特許審査の「外国ルート」が、2020年1月1日より段階的に廃止されています。国内での直接出願(第一国出願、分割出願またはパリルート出願)に関しては2020年1月1日より外国ルートがすでに廃止されています。そして次の段階には、優先権主張がありかつ国際出願日が2020年1月1日またはそれ以降、つまり30か月の国内移行期限が2021年7月1日またはそれ以降の場合のPCT国内移行出願が含まれます。統計的に、こうしたPCT国内移行出願がシンガポールの特許出願の大部分を占めると予想されます。外国ルートの廃止によって影響を受ける最後の(および比較的小さな)出願のグループは、優先権主張を伴わない(すなわち、2020年1月1日またはそれ以降に行われたPCT第一国出願に基づく)PCT国内移行出願となります。
外国ルートの廃止に伴い、選択できる審査オプションが減り、また審査請求期限が共通となるため、海外の出願人および実務者にとっては混乱が減ることになります。その一方、調査および審査を組み合わせた「国内ルート」と、適切な外国の調査報告に基づいて審査を行う「混合ルート」の2つの主要な審査オプションのうち、どちらがその出願に最適かをより早期に決定する必要があります。優先日または第一出願日(該当する方)から36か月である審査請求の期限は、シンガポールにおける最も一般的な出願形式である国内移行後、比較的すぐ来ます。国内ルートはすべてのケースで選択できますが、混合ルートと比べてUSD500近く庁費用が高くなります。
PCT調査結果をできる限り活用するため、特許性に関する国際予備審査報告書(または予備審査請求がされていない場合は、国際調査機関の見解書)の内容により、以下に一般的な推奨事項を示します。
- 特許性に関する国際予備審査報告書(IPRP)ですべてのクレームが調査され、先行技術に対して有効であることが示されている場合、出願人は国際調査報告(ISR)に基づく審査請求を検討します。
- IPRPで、すべてのクレームが調査されたが、有効性または明瞭性に関する未解決の否定的な見解があることが示されていて、ISRで引用された文献に英語の文書のみが含まれる、または英語の同等のものがある場合、出願人は、ISRに基づく審査請求を検討します。
- IPRPで、すべてのクレームが調査されたが、有効性または明瞭性に関する未解決の否定的な見解があることが示されていて、ISRで引用された文献に英語以外の文書が含まれる、または英語の同等のものがない場合、出願人は調査と審査を組み合わせた請求を行うことを検討します。これにより、このような英語以外の文書の翻訳文を用意するよう審査官に要求される可能性を未然に防ぐことができます。
- IPRPで、単一性に関する否定的な見解があり、すべてのクレームが調査されていることが示されている場合、出願人は、ISRに基づく審査請求を行うことを検討できます。一方、IPRPで、単一性に関する否定的な見解があり、一部のクレームが調査されていないことが示されている場合、出願人は、調査と審査を組み合わせた請求を検討できます。いずれの場合も、請求を行う前に、単一性に関する否定的な見解に対処するために適切な補正書およびまたは意見書を提出することができます。また、クレームを再検討し、最も重要な主題がクレームの最初のグループとして記述されていることを確認する必要があります。それでも単一性に関する否定的な見解が提示された場合、クレームの最初のグループのみが審査されるため、その他別のクレームのグループを選択することは不可能となります。
- IPRPで、すべてのクレームが調査されていないことが示されている場合、出願人は、調査と審査を組み合わせた請求を検討します。これにより、すべてのクレームが調査および審査される機会が再度与えられます。
なお、人体・動物の体の治療方法に関するクレームは、シンガポールでは特許の対象とみなされないことにご注意ください。こうしたクレームは、上記のオプションのいずれかで手続きを進める前に、適宜削除するか、第一・第二医療用途クレームに補正すべきです。
審査プロセスを迅速化するには、シンガポールがパートナー特許庁と結んだ広範囲なPPHの二国間協定または多国間協定を活用することで、出願人はPPHの申請を検討することができます(実行性がある場合)。たとえば、IPRPが肯定的でありかつ国際調査機関がGPPHパイロットプログラムの参加官庁である場合、PCT-PPHを使用できます。利用可能な統計情報に基づくと、シンガポールにおいてPPHを利用した出願手続きでは平均的に、PPH請求から最初のオフィスアクションまでの期間は6か月未満、特許付与率は90%以上、ファーストアクションでの特許許可率は60~70%です。
シンガポールにおける実体審査制度のもう1つの特徴は、審査期間が比較的短いことです。審査プロセスは、最初のオフィスアクションの発行日から18か月以内に完了します。実務上、出願人は審査官が審査報告書を発行することにより審査プロセスを完了するまでに、2回以上のオフィスアクションを受けることはあまりありません。肯定的な見解と否定的な見解の両方が混在する、あるいは否定的な審査報告書の見直し(審判)は可能ですが、大幅な追加手数料が請求されます。このような追加手数料や手続きの発生を避けるため、第二のオフィスアクションが発行された場合、出願人は、応答する前に、審査官との面接を検討することができます。事前に検討可能なように、予め審査官に議題および補正案を提示しておくと、より生産的な面接を行うことができます。
従来の外国ルートにあった遅い期限と干渉度の低さとは対照的に、今後は期限のプレッシャーと実体的な問題の両方の管理が必要となるため、シンガポールの特許出願の手続きはますます実務重視の傾向が強くなることが予想されます。その結果、シンガポールの特許弁理士はシンガポール特許法の実体的な側面だけでなく、技術面においても高い専門性を有することが必須になると考えられます。また、シンガポールの特許弁理士は、対応外国出願の先の審査結果に依拠せずに、オフィスアクションへの応答戦略を提示できるよう準備しておかねばなりません。
技術資格を有する30名以上の特許専門家が提供する深い技術知識と、長年にわたり実体審査を直接取り扱ってきたことで蓄積したノウハウをもつSpruson & Ferguson(アジア)の弊所チームは、発生しうるいかなる実体審査に関する問題にも対処できる十分な知識を備えています。シンガポールの出願に関してサポートが必要な場合、お気軽に弊所までお問い合わせください。
この記事は最初に2021年6月1日に英語で公開されました
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