オーストラリア特許庁は最近、コンピュータ関連発明に関して肯定的な判決を下しました(eBay Inc. [2020] APO 491)。
発明の実体が単なるスキーム、抽象的な概念またはビジネス手法ではなく、技術的な問題や物理的な問題に対して技術的解決策を提供すると判断され、これに伴い、クレームは製造の態様(manner of manufacture)に関するものであることが認められました。
出願(発明)
eBay Inc.(出願人)による特許出願(出願)は、人が混雑した場所を通り抜けて目的の場所に効率的に到着できるように支援する、位置、時間、混雑状況を考慮したナビゲーションデバイスに関するものです。
審査官による拒絶理由
審査段階で審査官は、リアルタイムで位置情報を取得および表示する機能は当該分野で既知であると主張し、かかるプロセスに対する改善についてクレームでは一切明記されていないと言明しました。
審査官はさらに、クレームされている配置または方法は、コンピュータに打ち込まれる抽象的な概念に過ぎず、汎用コンピュータ上で実装されたときに、結果的にある位置における有益な情報を便利に表示したとしても、汎用コンピュータの技術的側面を改善することにはならないと主張しました。
よって審査官は、この発明は製造の態様を定義するものではないと述べました。
出願人からの反論
出願人は審査官のコメントに同意せず、聴聞を要求しました。
出願人は、自身が考えるシステムおよび方法の技術的、実用的、および有益な側面を示し、それに加えて、時間と混雑状況を使用してリアルタイムのデータでインターフェイスを更新するという物理的な側面についても示しました。
長官代理人理の判断
出願人の提出書類と明細書をすべて読了した後、長官代理人はまず、個別の構成要素が技術的に改善されていないという審査官の主張に合意しました。しかしその後、長官代理人は審査官の報告書におけるその他の側面については同意せず、当該発明の実体は、技術的課題を解決する各構成要素の組み合わせにあると見られるという結論を下しました。
長官代理人は段落43で次のように述べています。
「クレームの組み合わせは、少なくとも現在時刻、イベントの開始または再開までの時間、および目的地点に到達するための経路沿いの混雑状況に基づいて、ユーザーに提供する物理的方向を変化させることを定義している。クレームされている、ユーザーが取るべき物理的方向の提供は、抽象的であるともビジネスプロセスの実装であるとも考えられず、むしろ、物理的および技術的な課題に対して実用的で有益な結果をもたらす、物理的および技術的な解決策であると考えられる。」
長官代理人は、Aristocrat Technologies Australia Pty Limited [2016] APO 492(「Aristocrat」)で確立された原則を考慮し、適用しました。長官代理人は、当該発明の実体は、少なくとも以下2つの原則を満たしていると判断しました。
- クレームされた発明による貢献は技術的な性質であるか。
- 方法を適用すると実用的かつ有益な結果が生じるか。
Aristocratの上記2つの原則を満たすという事実は、長官代理人が審査官の意見を却下し、出願は製造の態様に関するものであり、したがって特許可能であると結論付けるには十分でした。
重要ポイント
- コンピュータ関連発明は技術的貢献をもたらす必要があるという要件を踏まえ、取り上げられる技術的制限について特許明細書内にて言及することが理想的。
- コンピュータ関連発明を特許可能と判断するために、特許可能な主題を示すすべての要因を満たすことが必要なわけではない。
- 物理的なステップ、物理的な製品、物理的な装置および/または物理的な結果を強調することが、コンピュータ関連発明の特許可能性を実証する助けとなる。
参考文献
2 Aristocrat Technologies Australia Pty Limited [2016] APO 49
この記事は最初に2020年12月15日に英語で公開されました
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