Merck Sharp & Dohme Corp. v Sandoz Pty Ltd [2021] FCA 947において、オーストラリア連邦裁判所は、特許権者の2つの登録商品を開示およびクレームする特許に関して、2つの登録のうち早く登録された方の時期を理由として、医薬品特許期間の延長の許可が誤りであったという判決を下しました。この判決によると、新しい医薬品の開発者は、登録を意図している2つの商品を同一特許内でクレームする場合、注意する必要があることを意味します。
背景
Merck Sharp & Dohme Corp.(「MSD社」)は、2002年7月5日付けの豪州特許番号2002320303(「特許」)の特許権者であり、当初の20年間の特許期間は2022年7月5日まででした。オーストラリア特許庁(「APO」)は、2008年11月7日付けでオーストラリア治療用品登録簿 (Australian Register of Therapeutic Goods 、ARTG)に登録されたシタグリプチンとメトフォルミン(シタグリプチン-メトフォルミン)を含むMSD社の配合に基づいて、特許の期間延長を許可し、それによって同特許の特許期間は2023年11月27日まで延長されました。
MSD社は、Sandoz Pty Ltd(「Sandoz社」)が当該特許を侵害する恐れがあると主張しました。これは、Sandoz社が2022年7月5日までは特許でクレームされた発明を使用しないことを保証していたものの、当該特許の延長期間(すなわち、2022年7月5日から2023年11月27日まで)については、こうした保証をすることを拒否したためです。
Sandoz社は、シタグリプチンを含むMSD社自身の商品に照らして特許期間の延長は無効であると主張し(シタグリプチンそのものは2006年11月16日にARTGに登録され、当該特許において開示およびクレームされています)、当該特許が(2023年11月27日ではなく)2022年7月5日に満了となることを反映するように登録簿のを訂正を求めました。
特許庁長官(「長官」)が仲裁人としてこの審判に関与しました。 争点は、延長期間が(特許権者によって指定された)シタグリプチン-メトフォルミンの最も早い登録と、(2つの商品のうち最も早く登録された)シタグリプチンのどちらに基づくべきか、となりました。
法令
1990年オーストラリア特許法の第70条、サブセクション(2)~(4)では、特許期間の延長申請に関する要件が定められており、そのサブセクション(2)および(3)では以下のように規定されています。
第70条(2)
1または2以上の医薬物質それ自体が、その特許の完全明細所において実質的に開示されていなければならず、かつ、実質的に当該明細書のクレームの範囲内になければならない
第70条(3)
これらの医薬品の少なくとも1つの医学物質について次の条件が満たされなければならない:
- 当該物質を含んでいるまたはそれによって構成されている商品が、オーストラリア治療用品登録簿(ARTG)に記載されていなければならない
- 当該物質に関し、特許日から規制上の最初の承認日までの期間が少なくとも5年なければならない。
1990年特許法の第71条(2)では、特許期間の延長申請の期限を、以下に示す期限のいずれか遅い方と規定しています。
- (第70条(3)で言及されたいずれかの医薬品の)オーストラリア治療品登録簿(ARTG)への最初の登録日から6ヶ月後
- 特許が付与された日から6ヶ月後
第77条は、延長期間の計算を、第70条(2)に規定した医薬物質のいずれかに係る、特許日に始まり規制上の最初の承認日の初日に終わる期間から5年を減じる(ただし、負数にはならない)期間と等しい期間、また延長期間は5年を超えることができない、と定めています。
規制上の最初の承認日とは、オーストラリア治療用品登録簿(ARTG)での最初の登録日、または治療用品登録簿以前の販売承認が当該医薬品に付与されている場合には、最初の承認日のいずれか早い方です。i
MSD社の見解
MSD社は、小野薬品工業v Commissioner of Patents [2021] FCA 643 [135](「小野薬品工業判決」)の最近の判決を引用し(これについてはこちらおよびこちらで以前に議論済み)、延長期間の計算(すなわち第77条)は、特許権者がその特許期間の延長申請時に指定した最も早い登録日に基づいているという解釈を裏付けていると主張しました。MSD社はさらに、延長期間は第70条(3)で規定されている条件を満たす最も早い任意の商品(特許日から5年以上経ってから最初に登録された任意の商品)に基づくべきであるという別の解釈も提示しています。MSD社が提案した解釈のどちらにおいても、延長期間はシタグリプチン-メトフォルミンの登録日に基づいて計算することになり、MSD社には2023年11月27日までの延長期間が与えられることになります。
Sandoz社の見解
Sandoz社は、延長期間の計算は、明細書で開示され、特許のクレームの範囲内に収まる登録商品のいずれかの最も早い日付に基づくべきであると主張しました。長官は、Sandoz社による第77条の解釈に同意しました。
判決
Jagot裁判官は、この審判を小野薬品工業判決とは区別しました。小野薬品工業判決では、特許期間の延長申請の期限を決定するために使用すべきなのは(特許権者とは無関係な第三者の商品ではなく)特許権者自身の商品であるという事実認定に限定されると考えたからです。ii
Jagot裁判官は、説明覚書iii を参照し、「立法議会が、医薬品を開示およびクレームする特許を利用できる法的能力が得られるまで5年未満の遅延を設けることは許容可能であると考えたため、特許の期間の延長に対する法的能力を要求しなかったことは明らかである」しました。iv
同裁判官は、MSD社が特許日の5年以内にシタグリプチンを登録しており、それ故にその商品をその登録日から自由に利用できていたことに言及し、MSD社が「シタグリプチンを利用するにおいて許容できない遅延が一切生じていない状況で、20年以上にわたりシタグリプチンの独占権を得る」ことは、法令の意図に則しないと考えました。v
Jagot裁判官は、第70条(2)は「関連性のある医薬品の分類を定め」、第70条(3)は特許期間の延長のための「その分類のより小規模なサブセットを定める」と判断しました。vi第71条(2)は第70条(3)を参照するため、同裁判官は、特許期間の延長申請の期限は第70条(3)の要件を満たす商品(すなわち、特許日から5年以上経ってから最初に登録された商品)の最も早い登録日に基づくべきであると判断しました。さらに、第77条は第70条(2)を参照するため、延長期間は特許で開示およびクレームされている任意の登録商品のうち最も早いものに基づいて計算すべきだとしました。
したがって、同裁判官は、シタグリプチン-メトフォルミンおよびシタグリプチンはどちらも第70条(2)の条件を満たすが、シタグリプチン-メトフォルミンのみが第70条(3)の要件を満たすと決定しました。(第70条(2)を参照した)第77条の作用により、シタグリプチンが先に最初にオーストラリア治療用品登録簿(ARTG)に登録されているため、延長期間はゼロであると判断されました。これを根拠にして、Jagot裁判官は、特許登録簿を修正して特許の延長期間を削除し、特許満了期限を2022年7月5日へ戻すことを命じました。また、Sandoz社による特許侵害の脅威を主張するMSD社の最初の申請も棄却されました。
結論
Jagot裁判官は法令に付随する概念的な複雑さがあることを認めていますが、文章と文脈を両方検討すれば、この条項に関する曖昧性はないとしました。viiこの判決では、(特許で開示およびクレームされた)2つ以上の医薬品が特許権者によって、または特許権者の代理で登録されている場合、特許の延長期間の計算は、その医薬品のいずれかの最も早いオーストラリア治療用品登録簿(ARTG)への登録日に基づくことが確認されました。
この判決に鑑みて明確なことは、特許出願において2つ以上の潜在的に登録可能な商品(例えば単独の有効製品やこの判決で考慮されたような組み合わせの製品)が保護されている場合、特許出願人は、これらの医薬品が個別の出願にて隔離できるように、分割出願を強く検討すべきだということです。こうすることで、ひとつの医薬品に関する先の登録によって、別の医薬品に関する後に登録された商品の期間の延長が不可となることを回避できます。
このテーマに関して今後進展があったらお知らせします。また、特許期間の延長申請に関してご質問等がありましたら、弊所までお問い合わせください。
i 1990年特許法(Cth)第70条(5)。
ii Merck Sharp & Dohme Corp. v Sandoz Pty Ltd [2021] FCA 947 [53]。
iii Explanatory Memorandum, Intellectual Property Laws Amendments Bill 1997 (Cth)。
iv Merck Sharp & Dohme Corp. v Sandoz Pty Ltd [2021] FCA 947 [86]。
v 同上[87]。
vi 同上[77]。
vii 同上[84]。
この記事は最初に2021年8月26日に英語で公開されました
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