標準必須特許(SEP:Standard Essential Patents)は、新技術および高度に標準化した産業(例:通信、情報科学技術、消費者電子機器産業など)の発展および振興において重要な役割を担っています。いくつかの法域においてはSEPの実施許諾において特別な実施許諾条項が適用される場合があります。SEPは世界中の特許紛争においてますます問題となってきています。本記事は、オーストラリアにおけるSEPの実施許諾に関する総合的かつ最新のスナップショットです。
標準基本特許とは何か?
SEPとは、業界標準に組み込まれた発明に対する特許です。これはつまり、関連業界のいかなる人または組織も関連業界標準に適合するためにSEPを使用しなければならないことを意味します。業界標準は、製造者および技術革新者が最小限の安全性、品質または性能要件を満たす製品を開発することを可能にします。さらに、業界標準は、広範囲の業界および新技術にわたって互換性およびインターオペラビリティを促進します。このことが非効率を防ぎ、革新的製品が及ぶ範囲を潜在的に広げます。
標準の設定
SEPは業界内の競争を増加することを補助する一方、SEP所有者はSEPの他の使用者(SEP所有者の競争相手など)に法外に高いライセンス料を課すことにより、競争相手に対して商業的な利益を得る場合があります。これは、可能性として反競争問題や競争相手の市場からの締め出しに繋がる可能性があります。多くの電子機器や通信製品は多数の特許の対象となっており、それらの特許がその業界の中でも少数のキープレーヤーによって所有されているため、多くの場合規制当局はSEPの特許所有者による市場勢力の不正使用について懸念を抱いています。
上記において、業界関係者で構成されるいくつかの標準化団体(SSO:Standard Setting Organisations)がその構成員に対し、公正、合理的かつ非差別的(FRAND:fair, reasonable and non-discriminatory)な条件に基づき、SEPに関する実施許諾を利用可能にするよう求める方針を有する場合があります。この場合、SEP所有者がFRANDの義務を拒否した場合、特許発明が業界標準に組み込まれない可能性があります。また、SSOは、SEP所有者による特許の待ち伏せを防ぐため、標準に組み込まれる予定の技術を包含する特許(または係属中の特許出願)を有するか否かを開示することを業界関係者に求める場合もあります。関係者がSEPの所有について開示的な場合でも、具体的に何がFRAND条件を構成するかについて依然紛争が起こり得ます。
オーストラリアにおけるSEPの実施許諾
オーストラリアでは、SEPの開示および実施許諾についての直接の規制または法令要件はありません。さらに、オーストラリアの裁判所においては、FRAND実施許諾義務はまだ議論されていません。オーストラリアでは一般的に反競争的行為は2010年競争および消費者法(Cth)(CCA)の第IV部に基づいて規制されます。2019年9月13日に施行されるCCAの第51条(3)の廃止により、以前はSEPの実用許諾に適用されたかもしれないCCAに基づく知的所有権に関する免除はなくなります。
特許権者がCCAの第IV部に違反した場合、特許法の第133条に基づいて対象特許をライセンスする強制実施を求める場合があります。さらに、特許権者が特許発明に関して「一般公衆の合理的な要求」を満たすことができなかった場合、第三者が強制実施権を求めるべく連邦裁判所に申請することも可能です。ただしこの場合、第三者が特許権者からライセンスを得ようと合理的な期間試みたという条件が適用されます。
SEPの強制実施権のライセンス料は過剰であってはならず、申請者は裁判所によって正当かつ合理的であると決定された料金を支払うよう求められます。オーストラリアで強制実施権が付与されたことはなく、オーストラリアの裁判所はSEPの実施許諾やその他の事項に関してこの規定を適用したことはありません。
上記を踏まえ、第133条に基づく試験および要件は間もなく変更対象となり得ます。2019年知的財産権法修正(生産性委員会回答第2部および他)法案(Intellectual Property Laws Amendment (Productivity Commission Response Part 2 and Other Measures) Bill 2019)は、可決された場合、『一般公衆の合理的な要求の試験』を第133条に基づいて強制実施権が付与されるかどうかを決定するための『一般公衆の利益』試験に置き換えます。この法案は先月元老院に上程され、現在連邦議会で検討されています。
オーストラリアの裁判所におけるSEP
SEPは海外での訴訟および仲裁の対象になることが増えていますが、ここオーストラリアでは相対的にそれほど注目されていません。2011年に開始されたAppleとSamsungの訴訟では、連邦裁判所がその判決を申し渡す前に和解しました。
しかし、特許所有者および知財弁護士は現在、Motorola Solutions Inc(Motorola)とHytera Communications Corporation Ltd & Anor(Hytera)との間で進んでいる訴訟に注目しています。2017年にMotorolaはオーストラリアの連邦裁判所においてHyteraに対し特許侵害の法的措置(NSD1283/2017)(Motorola v Hytera)を開始しました。
Hyteraは無線トランシーバおよびシステムの製造者です。Motorolaは、特定のHyteraデジタルモバイル無線製品がMotorolaによって所有される3件のオーストラリア特許(Motorola特許)を侵害すると主張しています。これは、MotorolaがHyteraを相手取り、ドイツや米国を含む世界中で起こされた複数の訴訟の一つです。
Hyteraの抗弁は、これら特許のうち2件は欧州テレコミュニケーションズ標準協会(ETSI:European Telecommunications Standards Institute)のデジタルモバイル無線標準(DMR標準)にとって「必須(essential)」であり、DMR標準との適合はこれらMotorola特許の侵害なしには実現できなかったということでした。
Hyteraは更に、ETSIの構成員でありETSIの方針に沿ってETSIにすべての必須特許を開示する合理的努力を行う義務があるはずだったMotorolaが、DMR標準を作成する際、関連SEPを所有していることをETSIに開示していなかったとも主張しています。これら特許はDMR標準に基づきSEPとして特定されず、MotorolaはFRAND条件に基づくこれら特許の実施許諾を提供しませんでした。
結果、Hyteraはこれら特許を侵害していないとしており、Motorolaに有利ないずれの判決もFRAND条件に基づき概念的なライセンス料だけであるべきだと主張しています。
本記事を書いている時点で、Motorola v Hytera事件は口頭審理中です。本事件は最終的に弁護士、特許所有者およびその他の利害関係者に、オーストラリアの裁判所がどのようにSEPを評価し、オーストラリアにおいてFRAND義務をSEP実施許諾に適用するかについての見通しを提供できるかもしれません。
弊所は今後の展開を注視し、進展があり次第またお知らせいたします。
この記事は最初に2019年9月10日に英語で公開されました
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