この記事は最初に2024年8月21日に英語で公開されました
人工ニューラルネットワーク(ANN)および強化学習を利用して大規模AI学習システムを創製するグローバルな技術競争に際して、この顕著な新技術を認知し保護することに世界中の特許庁の全体的な抵抗がありました。
英国、欧州および米国における特許庁からの最近の動きは、ANN技術について特許権の認知における特許機関の間での制限的傾向を示しています。早期の指標では、オーストラリアおよびニュージーランドの機関もこの傾向に追随しそうです。
これらの特許機関の表明が判断の複雑な迷路を作り出す一方、特許実務家の印象としては、これらの表明を鑑みて特許出願を慎重に作成することによって、ANNに関する特許クレームが突然特許不適格から特許適格に変わることがあるということです。 ここでは英国、欧州、米国、オーストラリアおよびニュージーランドにおける現在の特許庁の姿勢を考察しますが、将来的には異なる見解も展開されることは間違いないでしょう。
英国
2024年7月、英国控訴裁判所は、特許、意匠および商標庁の長官対エモーショナル・パーセプションAI社(Emotional Perception AI Ltd)[2024]EWCA Civ 825において、強化学習を利用する人工ニューラル・ネットワークシステムを目的とする特許出願は、「コンピュータプログラムそのもの」についてであるため特別立法除外に属し、したがって対応する欧州の見解を実体化する関連英国法に基づいて除外されると判決しました。裁判所の理由説明は、ANNネットワークの利用の重みをコンピュータプログラムの創出と同等なものとしようとするものでした。
この判決のわずか6日後に、英国特許庁は、ANNについての特許を審査する際の審査官のための指針(revised guidelines for examiners on examining patents for ANNs)を改定し、すべてのANN出願に現行の標準的なソフトウェア基準を適用するよう審査官に求めました。
この判決の大きな問題は、コンピュータを『情報を処理する機械』とするその広い定義です。下記で議論されるように、これは、すべての電子回路を包含するように拡大される可能性があります。
例えば、デジタルロジックを実装する大部分の大規模デジタルチップは、ハードウェア記述言語(HDL:Hardware Description Language)によって設計されます。HDLは、Cコードなどの高レベル言語ソフトウェアに非常に近いのです。そのため、HDLは、情報の処理における裁判所のコンピュータのこの定義に属し、したがって同じ理由付けに沿って論理的に無効にされ得ると議論できます。HDLコードにおいて用いられる数は、ANNの重みと同等であると議論され得るでしょう。この英国裁判所の理由付けに追随してすべてのデジタルハードウェアクレームは、今や特許適格性を有さないと主張され得ます。
さらに、この英国判決では、ニューラルネットワークは、アナログ方式で働くヒトの脳をシミュレーションするように設計されていると拡張的に考察されています。アナログANN同等物(いいえ、ヒトの脳ではありませんよ!)について考えてみてください。エネルギー効率がより高いANNを作り出すその潜在力に起因して、アナログディープラーニング競技場において古いアナログコンピュータ設計が復活しようとしています。これは、同等なANN実装ですが、アナログドメインにおけるものですから、同じく脆弱なはずです。しかし、アナログANNをアナログ方式で情報を処理する他のいかなるアナログ電気回路(例えば、単純な電子アナログセンサー)と区別することは困難です。したがって、この英国判決は、アナログANNを包含し、拡大によりすべてのアナログ回路を包含するかもしれない危険があります!
AIゴールドラッシュは、最大の速度と柔軟性とのためにGPUハードウェア上で実行される行列乗算によってより効率的に実装されるスケール型ANNによっても推進されます。マトリックス値は、ANNの重みと同等になります。したがって、すべての大規模なANN特許は、今やこの基準の下で脆弱となっている可能性が高くなっています。
欧州
EPOの見解も似たような立場を取り、EPOの技術審判部は、ANNに対して似たような手法を採用すると考えられます(判決T702/20三菱電機株式会社2022年-疎接続ニューラルネットワーク(T 702/20 Mitsubishi Electric Corporation 2022 – Sparsely connected neural network)参照)。
米国
米国の見解にも、特定の複雑性がないわけではありません。7月末に、米国特許庁は、米国審査官による即時使用のための更新されたガイドライン、人工知能を含む特許主題適格性に関する2024年指針更新(2024 Guidance Update on Patent Subject Matter Eligibility, including on Artificial Intelligence)を発表しました。このガイドラインは、同等な米国法律(特許法第101条)に基づき特許を受けることができる主題のためのANNの同等な境界を考察しています。
関連する適用可能なアリス/メイヨ基準(Alice/Mayo test)の詳細な考察の後に、このガイドラインは、ANN機械学習の分野における3つの仮定的な例に独自のガイドライン規則を適用することを試みています。しかし、これら3つの仮定的な例にはそれぞれ、USPTOが同じ出願において適格性を有するとみなすクレームと適格性を有さないとみなすクレームとの両方を含んでいます。
このガイドラインによると、特許出願人は、慎重なクレーム作成によって発明を適格性を有さないから適格性を有するに変えることができると助言しているとも受け取れます!
オーストラリアおよびニュージーランド
オーストラリアにおいてANNに関する高度な判決が下されたことはありませんが、特許庁は、ソフトウェア特許を付与することに全般的な抵抗を示してきました。たとえば、アップル社(Apple Inc.)[2024] APO 23についての最近の特許庁判例において、オーストラリア特許庁は、自身の従来の特許庁基準の適用と裁判所の判例の選択的な解釈とによって、ソフトウェア特許出願(その親特許は既に許可されていました)を拒絶しました。
オーストラリア特許庁と(審査上の)交渉を行う際は、今一度、特許適格性を有さないクレームを避け、適格性を有するクレームへと導くように、ANNの明細書およびクレームを慎重に作成することが得策でしょう。 ニュージーランドにおいては、特許庁が英国の判例および法律に密に追随するため、エモーショナル・パーセプションの判決は特に影響力があり、同等のクレームの吟味を必要とする可能性が高いです。
結論
総合的に、ANN特許出願は悪天候に見舞われる兆しがあります。出願が適格性を有するクレームの方に導かれるように、特許作成者は様々な特許庁によって発表されたガイドラインを慎重に検討することが必要となります。
一つ良い兆候としては、うまくいけば特許適格性を有さないクレームを避けようと試みる特許作成者にチャットGPTなどの新しい大規模言語モデルが明確な指示を提供することができるということです!ただ、顧客の案件では使用しないよう注意が必要です。
そして、いいえ、この記事は、ANNで訓練されたチャットGPTの助けを借りて書いたものではありません。
弊所がお手伝いできること
ANNとAIシステムが全体的に進化しているグローバルな性質と速度を鑑み、潜在的に特許性のある出願を作成中の場合、知識のある助言者からサポートを得るようにしてください。
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出願のご指示等につきましては、通常のメールアドレスに英語でお送りいただけると幸いです。