東南アジアにおける親出願と分割出願との間での二重特許

この記事は最初に2024年9月19日に英語で公開されました

東南アジアにおいて分割出願を行う際には、法管轄区域によって規則および制限が異なり、特許権者が考慮すべきいくつかの大きな違いがあります。

これらの違いには、二重特許に関する拒絶理由が提起されない範囲で許可される親出願との重複の程度、これがいつ査定されるか、および二重特許が取り消し・無効の理由となるかどうかを含みます。シンガポール、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナムおよびタイについてこれらの問題を考察します。

シンガポール

二重特許の判断

二重特許の問題は、親出願と分割出願との間でもっとも高い頻度で生じますが、同じ出願人もしくはその権利相続人によって出願され、かつ同じ優先日および同じ発明を主張する2つの係属中の出願または付与済みの特許でもこの問題が生じ得る点に留意する必要があります。これは、親出願と分割出願として関連付けられていない出願であっても、主張されている優先日および出願人が同じである限り、二重特許とみなされ得ることを意味します。

何が二重特許を構成するかという問題は、シンガポール審査ガイドラインの段落6.105~6.106において考察されています。同じ出願人もしくはその権利相続人によって出願された2つの係属中の出願または付与済みの特許のクレームの範囲が同一であるとき二重特許の状況が生じます。クレーム範囲の重複は許可されます。

例えば、段落6.106を参照しますと、出願「A」のクレーム1と出願「B」のクレーム1とが同一の特徴を定義し、かつ出願「A」中のクレーム1は特定の特徴をさらに定義し、出願「B」中のクレーム1は対応する特徴のより包括的な群をさらに定義している場合、「A」中のこの特定の特徴が「B」中の唯一の開示された特徴であり、かつより包括的な群を構成していると明細書を解釈するための根拠がなければ、二重特許に関する拒絶理由が提起され得ます。他方、ある群からこの特定の特徴が選ばれ得ることを「B」が開示していれば、二重特許に関する拒絶理由は提起されません。

シンガポールには二重特許に関する特定の判例法はありませんが、コニンクリッカフィリップスエレクトロニクス社(Koninklijke Philips Electronics n.v.)対ヨーロッパ任天堂社(Nintendo of Europe GmbH)[2014] EWHC 1959(Pat)のように、二重特許の査定は独立クレームに重点を置く英国実務の判例が採用されると予測される点にも留意する必要があります。2つの出願の間で独立クレームの範囲が異なる場合、従属クレームが同一であっても二重特許に関する拒絶理由が提起される可能性はほぼありません。これは、シンガポールで採用されているクレームの解釈方法と合致します。つまり、従属クレームの範囲は、より広い独立クレームの範囲内にあるとみなされます。

いつ判断されるか

二重特許は、審査請求が行われた後にのみ判断されます(シンガポール特許規則の規則2A(1)(d))。親出願の審査時に二重特許に関する拒絶理由が提起された場合、親出願と分割出願とが共に係属中である場合、シンガポール審査ガイドラインの段落6.104によれば、親出願に対する見解書(別名審査報告書)に対して書面で応答するとき、分割出願において二重特許に関する問題に対処することを請求することが可能です。

付与後取り消しの理由としての二重特許

二重特許はシンガポール特許法の80条(1)(g)により取り消しの理由になります。二重特許の問題に対処するために特許を補正することは可能ですが、80条(5)により、補正によって二重特許問題を解消することができなければ、付与済み特許の全体が取り消される可能性があります。

フィリピン

二重特許の判断

特許審査手順のためのマニュアル(MPEP)の134~135頁の項目6.3によりますとクレームが同じ発明に関係していて、同じ出願人によって出願された2つ以上の出願の間で二重特許が評価されます。したがって、これは、これらの出願が親出願と分割出願として関連付けられていなくても、同じ出願人が所有し、同じ発明を主張するあらゆる出願を含みます。

どのようにして2つのクレームが同じ発明を主張しているとみなし得るかの解釈は、198~199頁の項目10.6に示されています。

「親出願と分割出願とは、同じ主題を請求してはならない(IV、6.4および、たとえば111条および規則915参照)。これは、それらの出願が実質的に同一範囲のクレームを含んではならないことだけでなく、一方の出願は、異なる言葉であっても、他方の出願中で請求されている主題を請求してはならないことも意味する。双方の出願の請求された主題の間の差異は、明確に区別可能でなければならない。しかし、一般的な規則として、一方の出願は、それ自体の主題を他方の出願のものと組み合わせて請求してよい。言い換えると、組み合わされて機能する別々のかつ明瞭な要素AとBとを親出願と分割出願とがそれぞれ請求している場合、双方の出願の一方は、AプラスBについてのクレームも含んでよい。」

出願人が同じ主題を包含する2つ以上の出願を行う場合、出願人には二重特許に関する拒絶理由に対処するためにクレームの補正を試す選択肢があり得ます。うまくいかない場合、出願人は審査を続行する出願を選ぶ必要があります。

いつ判断されるか

実務経験によりますと、二重特許に関するあらゆる問題は、典型的には審査請求が行われた後に提起されます。しかし、審査請求がまだ行われていない場合でも、分割出願において二重特許に関する拒絶理由が提起されることがあります。

付与後取り消しの理由としての二重特許

二重特許が取り消しの理由になると述べる明示的な規定はありません。

ブルネイ

二重特許の判断

ブルネイ特許法の第30条(3)(e)により、同じ出願人もしくはその権利相続人によって出願され、同じ優先日と同じ発明とを主張する2つの係属中出願または付与済み特許のクレームの間で二重特許の判断が行われます。したがって優先権主張日および出願人が同じである限り、同じ特許ファミリーによって関連付けられていない出願であっても二重特許と判断される可能性があります。

ブルネイ特許法は、2つ以上の出願が同じ主題に関するかどうかどのように判断されるかを具体的に定めていません。しかし、実務経験によればブルネイ特許庁は審査をデンマーク、ハンガリーまたはオーストリア特許庁へ委託していますので、二重特許に対する判断方法はそれらの国と同じであると予想されます。デンマーク、ハンガリーまたはオーストリア特許庁の審査官は、ブルネイ特許出願を審査するとき多くの場合、ヨーロッパ特許庁(EPO)において用いられている審査の基準を適用します。

いつ判断されるか

二重特許の査定は審査請求が行われた後に実施されます。

付与後取り消しの理由としての二重特許

二重特許はブルネイ特許法の77条(1)(g)により取り消しの理由になります。

インドネシア

二重特許の判断

インドネシアには二重特許を対象とする明示的な規定はありません。二重特許に関してもっとも近い規定は、後に行われた出願の出願・優先日より前にインドネシアにおいて出願された主題は、後の出願において特許権を得ることはできないと述べている第5条中に見いだすことができます。そのような規定は二重特許そのものというより新規性の問題を対象としています。

上記に関わらず、実務経験によればインドネシアの審査官は、親出願と分割出願との二重特許の問題を考慮するようです。二重特許に関する明確な規定がないため、査定は審査官の裁量に任されます。一部の審査官は、別の法管轄区域の対応出願において同種の拒絶理由が提起された場合、分割出願に対して二重特許に関する拒絶理由を提起することがあります。他の審査官は、以下に挙げるシナリオの際に二重特許拒絶を提起します(シナリオは非網羅的です)。

例1 分割出願においてマーカッシュクレームによって包含される特定の化合物を付与済みの親特許がクレームしている場合。

例2 付与済みの親特許のクレーム中のすべての特徴が分割出願のクレームにおいても包含されている場合。

いつ判断されるか

二重特許に関する明示的な規定が無いにも関わらず、分割出願において、審査請求が行われた後に二重特許に関する拒絶理由が提起される傾向があります。分割出願を行うときは、その分割出願の出願時に審査請求が行われる必要がある点に留意するべきです。

付与後取り消しの理由としての二重特許

二重特許に関する明確な規定が無いことと合致して、二重特許が付与済み特許の取り消しの理由になる可能性があるかどうかは明確ではありません。

マレーシア

二重特許の判断

マレーシア特許法の30条(6)は、同じ出願人もしくはその権利相続人によって出願されている2つ以上の出願が同じ発明を請求することはできないと規定しています。したがって、親出願と分割出願の関係に加えて、出願人が同じである限り、親出願と分割出願として関連付けられていない出願であっても二重特許とみなされる可能性があることを意味します。

しかし、同じ発明とみなされずとも許可される重複の程度について明確な規定はありません。

いつ判断されるか

実務経験によれば、分割出願の審査時に、特に係属中または付与後の親出願と同じクレームを有する分割出願が行われた場合、二重特許に関する拒絶理由が提起されます。

付与後取り消しの理由としての二重特許

マレーシアにおいて二重特許が取り消しの理由になると説明する明確な規定はありません。

ベトナム

二重特許の判断

ベトナムは、「先願」原則に則っており、ベトナム特許法の第90条によると、同じ発明または同等の発明について2つ以上の出願が行われた場合、すべての保護基準を満たす出願の中で最も早い優先日または出願日を有する出願にのみ特許が付与されると規定されています。

親出願と分割出願とが二重特許となる可能性があると判断される場合、二重特許の基準は審査ガイドラインの第24条に示されています。第24条では、第1の出願と第2の出願とのクレームの範囲が同一である場合に二重特許が生じると述べています。第1の出願が製品をクレームし、第2の出願がその製品を製造するプロセスをクレームするという意味でのクレーム範囲の部分的な重複は許されます。他方、第1の出願のクレームが属を指し、第2の出願のクレームが第1の出願の属によって包含される種を指す場合、それらのクレームの範囲は完全に重複しているとみなされ、二重特許に関する拒絶理由が提起されるでしょう。

いつ判断されるか

実務経験によれば、典型的には分割出願の審査時に二重特許に関する拒絶理由が提起されます。

付与後取り消しの理由としての二重特許

特許の取り消しの理由は、2022年の改正IP法の第96条中に示されています。取り消し理由の1つとして、発明が「先願主義」の要件を満たさないことが挙げられます。したがって、付与済みの分割特許が付与済みの親特許と同じ主題に関すると認められた場合、分割出願は「先願」主義を満たさないとみなされ、無効にされる可能性があります。

タイ

二重特許の判断

タイにおいて二重特許に関する明確な規定はありません。

タイでは審査官が単一性の欠如に関する拒絶理由を提起する場合、すなわち特許出願が異なる複数の発明を指す場合にのみしか分割出願を行うことができない点に留意するべきです。それぞれの分割出願は、審査官によって特定されかつ親出願において審査されていない発明の群の1つを対象としなければなりません。したがって、実際には、親出願と分割出願との間に二重特許問題生じることは不可能、あるいはそうでないとしても稀です。

いつ判断されるか

完全を期するために申し上げますと、上記に関わらず、弊所では二重特許のあらゆる問題は実体審査中に生じると理解しています。上記のように、既に親出願とは別の発明とみなされている発明についてのみしか分割出願を行うことができませんので、親出願と分割出願との間で二重特許に関する問題が生じる可能性は高くありません。しかし、同じ出願人によって所有され、親出願と分割出願として関連付けられていない2つの出願についてどのようにして二重特許が評価されるかは不明確です。

付与後取り消しの理由としての二重特許

第65条4稿において、同じ発明について特許と実用新案とを出願することはできないと述べられていますが、特許法には二重特許が取り消しの理由になると述べている明確な規定はありません。

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