オーストラリア|意匠保護 デジタル時代に向けたオーストラリア知財庁の大胆な改革

この記事は最初に2024年11月5日に英語で公開されました

2020年におけるオーストラリアの意匠セクターの審議に続き、オーストラリア知財庁は、意匠登録体制への広範な変更を提案し、これらの提案の公開審議に乗り出しました。オーストラリア知財庁から最近発表された文書が、特に仮想意匠に関してこれから行われそうな変更の内容に洞察をもたらしています。重要な変更ならびに寄せられたフィードバックを、その後のオーストラリア知財庁の見解を含めて紹介します。

オーストラリア知財庁意匠審議

意匠関連産業界における意匠イノベーションの主要推進主体ならびに現行登録意匠制度への何らかの変更が有益となり得るかどうかをよりよく理解するために、オーストラリア知財庁は2020年に審議を行いました。

この審議によりますと意匠関連産業界における経済活動は確固としていますが、少数の企業が登録意匠権を保持しているにすぎません。このことは、オーストラリアの登録意匠制度が十分利用されていないことを示唆します。

この審議に応えてオーストラリア知財庁は、下記を保護することが可能になるように改革すればオーストラリアの登録意匠制度にとって有益になり得ると結論しました。

  • 仮想意匠(バーチャルデザイン)
  • 部分意匠および
  • 増分意匠(インクリメンタル(incremental)デザイン)

これらの変更を実施に移す提案が公開審議のためにオーストラリア知財庁によって提示され、2023年6月13日から8月13日にかけてオーストラリア知財庁は提案された改革について公開協議を行いました。

この協議の結果として、オーストラリア知財庁は、様々な提案について寄せられたフィードバックの要旨を発表し、提起された問題に対するオーストラリア知財庁の見解を示しました。この記事は、これらのフィードバックならびにオーストラリア知財庁がこれからどのように前進するかを考察します。

仮想意匠

仮想意匠とは、物理的な形を持たない意匠、例えば、グラフィカルユーザインタフェイス(GUI)またはアイコンを指します。

オーストラリアにおいて仮想意匠を合法的に登録し、施行することができるかどうかは今のところ不明確です。なぜならば、オーストラリア意匠庁は、次のような見解だったからです。

「ロゴ、タイプフォント、およびグラフィカルユーザインタフェイスなどのソフトウェアは、『製品』であるとはみなされない。それらのものはオーストラリアの法律の下で『製品』の定義を満たさないから、それ自体として登録することができない。」[1]

さらに、オーストラリア意匠庁は、審査において製品が「静止している」(すなわち電子製品の電源は切られている)ときの意匠の視覚的特徴を考慮しなければならない、という見解でもありました。つまり、ユーザインタフェースまたはアイコンなどの視覚的特徴は、意匠を具体化している製品が「静止している」とき見えなくなることを意味します。[2]

しかし、この意匠庁の見解を是認する裁判所判決も反駁する裁判所判決もありませんでした。

オーストラリア知財庁は、現行制度における不明確さを取り除き、仮想意匠に対する保護を明示的に含むように登録意匠権を拡大することを提案しています。この提案は、利害関係者によって広く支持されました。

提案ならびに寄せられたフィードバック

自らの協議文書において、オーストラリア知財庁は、2003年意匠法(Cth)にある「製品」および「視覚的特徴」の定義への変更、ならびに出願が仮想意匠(たとえば文章、数値の並びおよび/またはさまざまな表示物)の動的特徴を示すことを可能にすること、および仮想製品の顧客または最終使用者が(たとえば配布者のウェブサイトからコンピュータプログラムをコンピュータにダウンロードすることによって)侵害の責任を負わないことを確実にするように侵害規定を改正することを提案しました。

利害関係者は、「製品」および「視覚的特徴」の定義が改正される必要があることに同意しましたが、一部は、提案されたオーストラリア知財庁の定義が必要以上に限定的であるかまたは曖昧さを加えているとみなしました。オーストラリア知財庁は、フィードバックに応えてこれらの定義を精密にして行きます。

利害関係者は、意匠の動的特徴を示すためにアニメーションまたは動画の取り入れも提案し、オーストラリア知財庁によって好意的に受け入れられました。

また利害関係者は、「寄与侵害」の概念を導入することも示唆し、これもオーストラリア知財庁によって好意的に受け入れられました。

提案された重要な変更

  • 2003年意匠法(Cth)中の「製品」の定義を「仮想製品」の定義を取り入れるように改正。
  • 2003年意匠法(Cth)中の「視覚的特徴」の定義を、製品の特徴をその「活動」状態または「オン」状態で取り入れることができることを確実にするように改正。
  • 意匠の動的特徴を見せる動画ファイルまたはアニメーションを任意あるいは選択的な補助情報として出願とともに提出することを可能とする。
  • 侵害規定は、仮想製品の販売者が侵害の責任を負い、顧客または最終使用者が責任を負わないことを確実にするように改正。これは、「寄与侵害」規定を導入することおよび仮想意匠の特定の「合理的」使用(たとえば研究、エラー訂正、バックアップ、試験等)を追加で侵害の要件から除外することとなる。
  • 1968年著作権法(Cth)および2003年意匠法(Cth)の重複規定を取り除き、意匠登録の取得可能性に起因して仮想現実作品が著作権保護を失わないことを確実にする。

部分意匠

主要貿易相手国と異なり、オーストラリアの登録意匠制度は、製品の部品または一部分(たとえばカップの取っ手)の保護を許可しません。その代わり、製品は全体として考慮され、たとえば新規性および進歩性の供述書において点線を用いることおよび/または特定の部品を強調することによって特定の特徴を強調するかまたは目立たなくすることのみが可能です。[3]

オーストラリア知財庁は、部分意匠のための保護を含むように登録意匠制度を変更することを提案しています。

提案および寄せられたフィードバック

協議文書において、オーストラリア知財庁の主要提案は、製品の部品を組み入れるように意匠の定義を改正すること、「明確性」要件を導入すること、および任意の書面によるクレームを優先して新規性および進歩性の供述書(SOND Statements of Newness and Distinctiveness)を廃止することを含んでいました。

これらの提案は、大方において好評でしたが、一部の利害関係者は書面によるクレームを任意選択にとどめるべきであると示唆し、SONDの廃止については入り混じった見解がありました。

部分意匠登録が適用可能である製品を特定するために必要な基準を変更すること、部分意匠に対する侵害製品にとっての先行技術基盤を「類似の」製品に限定すること、および実質的な類似性を評価するとき「クレームから除外された」または「クレームされていない」特徴の考察を可能にすることも提案されました。

一部の利害関係者は、製品全体のための意匠と比較して、より強力な権利を部分意匠に与えられると考えたため、これらの提案に対してはいくぶんかの反対がありました。

提案された重要な変更

  • 部分意匠を含むように現行の意匠の定義の拡大。部分意匠は、「製品の一部の全体的な外観であって、その製品のその一部の一つ以上の視覚的特徴の結果生じる外観」と定義される。
  • オーストラリア知財庁は、部分意匠が製品のどの一部に関するか特定するために視覚指定子(たとえば点線、着色、影付け等)と書面クレームとの使用を提案。書面クレームは任意選択となる。
  • 「明確性」要件の導入。意匠出願において求められる保護の範囲は、図面と、適用される場合は書面によるクレームとを考慮して当業者に明確でなければならない。
  • 有効性または侵害を評価するとき、クレームされていない特徴またはクレームから除外されている特徴を限定的な目的で考慮すべき。すなわち、クレームされた部分は何のためか、および相当する製品においてどこに見い出される可能性があるか理解する。
  • 新規性および進歩性の供述書(SOND)は、保護期間内の適当な時点で修正可能である任意選択の書面によるクレームの包含を考慮して廃止。
  • 登録された部分意匠にも全体意匠の侵害に関する既存の基準の維持を適用。

増分意匠

製品、およびそれら製品において具体化される意匠は、一般に、増分(インクリメンタル)プロセスまたは繰り返しのプロセスにおいて開発され、多くの場合、製品が仕上げられる前に多数のプロトタイプ、試験および再設計を伴います。このプロセスは、多くの場合、出願が行われると意匠を変更する柔軟性はほとんどない、登録意匠制度の運用と相容れないと感じられます。

このことが、登録意匠制度の利用不足をもたらし得ます。 これを改善するために、オーストラリア知財庁は、意匠がそのライフサイクル中に発展するときに意匠を保護する二つの新しい仕組みを提案しました。

  • 予備(preliminary)意匠、および
  • 登録後結合(post-registration linking)

予備意匠

予備意匠は、出願人が優先日を確定するために初期的に低費用で出願を行い、6か月以内に主出願を行うことを可能にします。主出願は、予備意匠出願における意匠への増分変更を有し得ます。

しかし、利害関係者は、予備意匠の提案にいくつか問題があることを指摘し、予備意匠は、海外出願において条約による優先権を主張する適切な根拠を提供することができないため、オーストラリアの出願人が海外で保護を得ることが困難だと予見しました。

さらに、出願する前に主意匠が予備意匠と十分に類似してこの提案から利益が得られるかを出願人が決定することは、難しくなり得ます。提起されたさらなる問題は、出願人が意匠の茂みを作り出す(類似の意匠に関する多数の主意匠出願を行う)ことによって、または予備意匠が出願された後に特定の競合相手の意匠を捉えるために主意匠を戦略的に用いることによって、イノベーションを抑制する可能性があることでした。

フィードバックに応え、オーストラリア知財庁は、予備意匠の提案は現時点ではこれ以上進ませないと決めました。

登録後結合

登録後結合は、出願人が主意匠出願を行い、その後、主意匠に対して増分改善点を有する別の出願を行い、両方の出願を「結合する」ことで、主出願が後続出願を無効にする先行技術として用いられることがないようにします。

提案および寄せられたフィードバック

協議文書において、オーストラリア知財庁は、後続の意匠は、先行の意匠と実質的に類似している場合、先行の意匠と結合することができ、結合することができる意匠の数に制限がないことを提案しました。後続の出願の存続期間は、結合された出願の連鎖の中で最先の意匠の存続期間に限定されます。

大方の利害関係者はこの提案を支持しましたが、一部は、出願人が登録後結合を用いて多数の後続意匠出願を行い、自分たちの独占を拡大し意匠の茂みを作り出そうとすることがあり得るという懸念を提起しました。これに応えて、オーストラリア知財庁は、後続の意匠は、主意匠と実質的に類似している必要があるため、独占拡大を作り出す能力は限定されるという見解でした。

複雑さや起こりうる管理負担が追加されることについての懸念もあり、一部の利害関係者は、後続の意匠の存続期間の短縮が登録後結合を用いる誘因を減らすことがあると示唆しました。

このフィードバックへの応えとして、オーストラリア知財庁の提案は、結合される意匠の存続期限を場合によって延長し、複雑さおよび管理負荷を減少させるように改定するとしました。

提案された重要な変更

  • 結合は、審査においてまたは裁判所での審理時にのみ可能。
  • 同じ製品のための後続の意匠は、全体的な印象において実質的に主意匠に類似していなければならない。
  • 同一の意匠を有するものの別々の製品(たとえば仮想製品と物理的製品)のための意匠出願を結合して出願人が意匠の物理的形状と仮想的形状との両方のための保護を求めることを可能にする。
  • 後続の出願の存続期限は、それと実質的に類似している、結合された最も早期の意匠(連鎖の中の最初の意匠ではなく)の出願日から10年に限定。
  • 主意匠および後続の意匠の権利所有者は、結合時以降において同じでなければいけない。

次の段階

協議の成果はオーストラリア政府に報告され、同政府は、現在、これらの提案を実施するための法案を検討中です。法案が進行すればさらなる協議が行われるかもしれません。

将来への期待

全体として、提案されたこれらの変更は意匠創作者に有利であり、登録意匠制度の利用を広げる結果になるはずです。

仮想意匠および部分意匠の導入は、オーストラリアの登録意匠制度を主要貿易相手国のものとより緊密に揃えることになるでしょう。これは、自分たちの作品を保護することを求める国内の意匠創作者ならびに海外で得られるものと類似の保護範囲をオーストラリアにおいても得ることを求める外国の出願人の両方にとって有益なはずです。

登録後結合に向けての提案も、出願人に有益なはずですが、制度にかなりの複雑さが追加され、慎重な出願戦略の考慮を必要とすることがあり得ます。お客様の意匠革新のあらゆる段階においてお手伝いと戦略指針をご希望でしたら、オーストラリアにおける弊所専門家チームにお知らせください。


[1] 実務および手順についての意匠審査官のマニュアル(Designs Examiners’ Manual of Practice and Procedure) 10.5部 製品 製品名。

[2] 実務および手順についての意匠審査官のマニュアル(Designs Examiners’ Manual of Practice and Procedure) 9.4部 意匠の特定 可変視覚的特徴、アップル社(Apple Inc) [2017年]ADO 6。

[3] グリフィス・ハック(Griffith Hack)としてのGH PTM Ptyトレーディング社(GH PTM Pty Ltd trading)対クライペックスIP社(Clipex IP Limited) [2022年] ADO 3 (2022年8月5日) [38]-[39]。


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