この記事は最初に2025年3月10日に英語で公開されました
食品・飲料(F&B)業界において最も急速に進化している領域は、おそらく精密発酵でしょう。この記事では、フードテックを専門とする弁理士であるピーター・ブラウン博士が、当該技術の爆発的な成長を考察し、最近出願された特許の中で注目されているとても興味深いF&Bイノベーションのいくつかを紹介します。ピーターは、オーストラリアおよびニュージーランドのフードテックおよびアグリテックセクターのお客様と連携しています。
「Future Food-Tech 」が、サンフランシスコで今月開催されようとしており、当該会議のセッションの多くは、精密発酵における複数の世界的先導者が呼び物となっています。
精密発酵とは、微生物(例えば、酵母、細菌または真菌)および合成生物学の技法を利用して、タンパク質、脂肪またはバイオアクティブなど所望の機能性成分を生産する技術です。これらの標的分子は、その後抽出・精製して、様々な食品や農業製品に使用することができます。F&Bセクターでの代表的な例としては、乳製品、肉または卵のタンパク質が挙げられます。RethinkXは、精密発酵における全ての活動を可視化することを手助けする、便利な「periodic table(周期表)」を提供しています。これはまだ序の口で、この分野はほぼ毎日、急速な進化を遂げています。
私が博士課程の研究中、進行中の医薬品開発用に細菌株を遺伝的に操作し、MIOXと呼ばれるタンパク質を過剰発現させて、原子レベルでのその構造を限定したときに使用したのと同じ合成生物学の技法が使われています。私が今、F&B産業に特化した弁理士であることは、幸運なことです。そして、この技術は、数十年にわたり、食品産業において最も興味深い開発の原動力となっています。実際、世界経済フォーラム2020では、精密発酵が持続可能かつ大規模化可能な代替策を提供することにより将来の食糧安全保障を確保し、世界の食糧生産の再構成をもたらすだろうとして注目を集めました。
これらの分野に対して、世界全体で、相当な投資およびイノベーションに向けた努力がなされており、Global Market Insightsは、F&Bの材料として、世界の精密発酵の市場は2024年の24億USDから2034年には703億USDまで成長するだろうと予測しています。これは、39.9%の年平均成長率(CAGR)という驚異的数字です。Good Food Instituteの2023年State of the Industry Report for Fermentationによれば、企業は、2022年から2023年の間で、合計すると12.5億USD超の売上を得たと紹介しています。
イノベーションを追跡するためのツールとしてのパテントランドスケープ
特許、より具体的にはパテントランドスケープは、その産業内および企業レベルで、イノベーションに関する取り組みを追跡および分析をするための最も優れた計測法のうちの1つです。
多くのお客様に対して、私たちは、データを細分化して、有用な分析結果をご用意し、お客様のR&D、企業およびIP戦略に活かしていただけるようお手伝いしております。
この記事を執筆するための簡単な特許調査から、いくつかの興味深い予備的知見を得ました。図1によれば、精密発酵に関連する特許出願数は2019年から急増し、2022年においては2018年と比較して実質的に3倍に到達しています。(2024年のデータは、まだ不完全であることに留意願います)

図2によると、米国が精密発酵において大差をつけて明白な先導者であり、私たちが査定した全体のパテントランドスケープにおいて40%以上寄与していることを示しています。しかし、カナダ、欧州、オーストラリア、ニュージーランドおよびイスラエルを含む、多くの他の地域も、健闘しています。

Notable innovations
米国を起源とする目立った発明が数多くありますが、このこと自体は、米国がこの分野で世界の先導者であることを考慮すれば、何ら不思議ではありません。
古参のイノベーターのうちの1つであるImpossible Foodsは、少なくとも30の有効なパテントファミリーを保有しています。これらの中でも、Motif FoodWorks が異議申し立てを行ったことで有名なのが、米国特許第9,943,096号です。この特定の特許は、酵母中に組換え技術で産生される大豆のレグヘモグロビンを活用するヘム技術により、肉のようなフレーバーや“血が滴るような”外見をもたらすことに焦点を当てています。私の以前の職務である、Goodman Fielderのイノベーションマネージャーとして、ニュージーランドの市場に出回る前に、Nick Halla氏のゲストの一人としてImpossible Foodsのバーガーを初めて賞味することができたのは喜ばしいことでした。グリルの上で、バーガーから血が滴り、ジュージュー音を立てた時に、見ていた人が「わぉ」ととても感動していたことを思い出します!
最も注目に値するプレイヤーのうちの1つは、The EVERY Company(以前のClara Foods)であり、この会社は、およそ20の有効なパテントファミリーを保有しています。彼らの最も古い特許のうちの1つは、2019年まで遡る米国特許第12/096,784号によって代表されます。この特許は、知覚的に中性であることや様々な食品形態にわたって安定性を維持すると言われる組換えオボアルブミン(卵白タンパク質)の生産に関連し、また、動物由来のタンパク質と比較して、可溶性および鮮やかさが改善されることを報告しています。
ミルクの代替物に話題を転じると、Perfect Dayは、乳製品の精密発酵技術において、間違いなく突出した存在であり、今では15億USDの価値があると考えられています。2014年に初めて起業されたにもかかわらず、8億USDを超える資金援助を受けており、当該企業が25を超えるパテントファミリーを保有していることは驚くに当たりません。おそらく、最も影響力のある特許は、米国特許第9,924,728号であり、この特許では、真菌細胞の培養により産生された、組換えβ-ラクトグロブリンおよびα-ラクトアルブミンタンパク質を含む組成物を権利化しています。これらのタンパク質が、牛乳の味、香り、および口当たりを模倣していること、ならびに環境に対する影響を低減し、食品媒介性の病原体を最小限に抑えることが、この特許では主張されています。
さて、私の地元であるオーストラリアおよびニュージーランドに目を向けてみましょう。
Cellular Agriculture Australiaの報告書(2024年8月)に記載されているように、オーストラリアもまた、精密発酵において目覚ましい進歩を遂げております。この報告書では、オーストラリアの提供価値を紹介しており、強固な研究エコシステム、尊重される特許システム、分野の先陣を切る幅広い革新的企業(以下を参照)および協力的な遺伝子技術規制スキームの中での、合成生物学の重要な専門知識の活用を要点に挙げています。
この最後の点に関しては、2024年初頭に、OGTR(遺伝子技術規制局、Office of the Gene Technology Regulator)は、10,000Lの精密発酵設備を使用して、組換え技術により作成された動物タンパク質を生産することを、Cauldronに対して許可しました。
精密発酵を追求しているオーストラリアのF&B企業としては、Eden Brew、Nourish Ingredients、Cauldron、Eclipse、All G FoodsおよびNoumiが挙げられます。
All G Foodsは、最近2023年にAU2023278779を出願し、この特許は、動物質を含まないカルシウム感受性カゼイン(かつカッパカゼインを欠く)組成物を、微生物発酵を通じて生産するための方法に関するものです。この特許は、中国、インド、韓国、ニュージーランドおよびシンガポールでも出願されており、All G Foods社が、これらの国々を商業上重要なオフシェア市場として見ていることを示しています。
また、スタートアップであるEden Brewは、組換え技術により生成された乳タンパク質の生産に取り組んでいます。Eden Brewが直接出願した特許は見受けられませんが、最近のプレスリリースによりますと、政府からの資金援助およびCSIROとの共同研究に支えられ、この活動が進行中であろうと思われます。
2022年に$2800万を超える資金援助を受けた後、Nourish Ingredientsもまた、タンパク質ではなく脂質の生産にではありますが、精密発酵を取り入れています。Nourish Ingredientsは最近、AU2022289040およびAU2022231106に代表される2つの特許を出願し、これらは、加熱された場合に「肉に関連した味および/または香り」を提供する脂質について記載しています。両方のファミリーは、多くの海外国にも展開されており、ここでも、精密発酵技術の世界規模での好機を反映しています。近年では、Nourishは、2つの関連した脂質成分(Tastilux®およびCreamilux®)を発売し始めました。
また、ニュージーランドもも予想以上の成果を上げています。
比較してみますと、ニュージーランドの代替タンパク質産業は、上記のパテントランドスケープで示しましたように、依然として初期の段階にあります。しかしながら、オーストラリアと同様に、特にフードサイエンスおよびタンパク質化学において基礎となる科学的専門知識において、大いに期待できます。2023 Emerging Proteins New Zealand Reportでは、代替タンパク質に関する公式な国家戦略を欠いている国であるにもかかわらず、研究機関やスタートアップの多くが、積極的に精密発酵を探求していることが紹介されています。
これらの研究機関のうちの1つであるAgResearchは、2022年にFermentation for Future Food Systems報告書を公表し、世界的競争力を得るために、ニュージーランドの発酵技術インフラの拡大の必要性を強調しています。この分野において予想される原動力の大部分は、ニュージーランドが、F&Bの輸出、特に乳業および赤肉産業に依存していることです。ニュージーランドが、破壊されるのではなく、大変革の一躍を担う必要があるのは明らかです。
おそらく最も示唆的なのは、乳業の大手企業であるFonterraが、既にDSMと提携して、オランダのスタートアップViviciに投資したことです。Viviciは近年、国際特許WO2025046004を出願し、この特許は、酵母を使用して、組換え技術により作成されたベータ-ラクトグロブリンを標的としており、得られる組成物の糖分が有利的に少ないことが特筆されます。最近のAgFunderNewsの記事では、ViviciのCEOであるStephen van Sint Fiet氏が、商業規模の発酵槽およびGRASステータスを利用して、商業的製造へと急速に進めていくことを表明しています。
Fonterraの他に、オークランドの女性が率いるスタートアップDaisy Labはまた、2つのPCT(国際)特許WO2024049307およびWO2025046472を出願し、これらは、精密発酵を通じて生産される、酵母由来の乳タンパク質に焦点を当てています。$150万の資金援助に支えられて、彼らの取り組みは、チーズ、ヨーグルトおよびミルク代替物で使用することができる、乳製品様タンパク質(乳清およびカゼイン)の供給を目指しています。
乳製品の話題を続けますと、Mirukuは、NZ812021に記載されているように、改変された乳タンパク質および脂質を、微生物の代わりに植物で遺伝的に発現させることによる代替的な方法を採用しています。今では$700万を少し超える資金援助を受け、Mirukuは、米国、ブラジル、オーストラリアおよびイスラエルを含むいくつかの国々に、その特許を展開しています
進化の継続
精密発酵セクターは、この技術に多く投資する世界規模のプレイヤーおよび多くの新興スタートアップの両方により、急速な進化を続けています。乳製品を使用していないカゼインタンパク質から卵の代用品や肉の香りを模倣する脂質まで、この産業は、科学的な飛躍的進歩や商業化の取り組みに溢れています。
熾烈な競争が起こっているこの分野においては、これらの企業が、彼ら独自の異なる視点を際立たせること、成長のため(存続のためではなく!)に資金援助を引き寄せること、および最終的な出口戦略に対して自らを戦略的に位置付けるために、特許は非常に重要です。
米国、特にサンフランシスコのベイエリアが、明らかに、精密発酵の道を切り拓いています。しかしながら、ニュージーランドやオーストラリアなどの多くの国々も、今後数年間で私たちの食品業界を永遠に変えてしまうようなこの大変革に乗り遅れないように、この分野に多大な投資をしております。
フードテックセクターにお勤めで、オーストラリア、ニュージーランドまたは他のアジア太平洋諸国での特許に関する助言をご希望の場合には、機密保持の打ち合わせをいたしますので、ピーターまでご連絡願います。
弊所では一般的なお問い合わせや見積もりの際にご利用いただける日本語担当窓口を用意致しております。
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